研究課題/領域番号 |
17K05980
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
酒井 哲也 日本大学, 生産工学部, 准教授 (70376961)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イオン交換ゼオライト / アミン硬化エポキシ樹脂 |
研究実績の概要 |
近年,下水道環境において微生物由来の硫酸が発生し,コンクリートを腐食させることが問題となっている .このような腐食を防ぐため,アミン硬化エポキシ樹脂などが被服防食用途に多く用いられているが,耐酸性には劣るため,硫酸の組み合わせは注意を要する. また,様々な目的から多くの種類の充填物が用いられているが,この充填物の存在が腐食速度を増加させることが確認されている.一方で,環境液の浸入もしくは環境液との反応によって劣化を抑制するような充填物があれば,材料の耐食性向上につながるとも考えられる.そこで,このような充填物としてイオン交換特性を有するゼオライトに着目し,アミン硬化エポキシ樹脂に充填させ,硫酸環境において樹脂の劣化に及ぼすゼオライトの効果および寿命について検討を行った. 試験材料はアミン硬化エポキシ樹脂および充填材として合成ゼオライトを2種類用いた.Naイオンのカチオンを有する合成ゼオライトと,母体の形状が同じHイオンのカチオンを有するゼオライトを用いた.比較のために一般的な充填物であるアルミナの計3種類を実験に使用した.各試験材料は,樹脂および硬化剤と充填物がかさ密度で50vol%:50 vol%となるように調整し,樹脂に対して消泡剤を0.5phr添加し,室温・大気中で厚さ2mmの板状に注型し,50℃一定で24時間の硬化後,80℃一定で3時間の二次硬化を行った.さらに,長さ60mm,幅20mmに切断したものを試験片として使用した. 試験環境は50℃10mass%の硫酸水溶液中で試験片を単純に浸漬させる方法によって行った。 その結果,ゼオライトを充填することによって,樹脂単体よりも硫酸の浸入は抑制された.さらに,Hイオンのゼオライトを充填したものは優れた耐食性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度においてはアミン硬化エポキシ樹脂に充填材として2種類のカチオンで母材は同じ合成ゼオライトを用いた.このゼオライトはNaイオンのカチオンを有する合成ゼオライトと,母体の形状が同じHイオンのカチオンを有するゼオライトであるが,前述したとおり,この条件ではアミン硬化エポキシ樹脂に比べてカチオンの種類を問わず5倍以上の良い耐食性を示した.これは硫酸イオンとの交換反応により耐食性が向上したものと示唆される.さらにNaイオン(樹脂単体に比べて5倍)に比べてHイオンの方が高い耐食性(樹脂単体に比べて8倍)を示したことから,単純な硫酸とのイオン交換による耐食性の向上だけではないことが示唆された. このメカニズムについて詳細な検討をイギリス、マンチェスターのThe University of Manchester,School of Materials, Corrosion and Protection, AkzoNobel Laboratoryにおいて,分析する予定であったが,2017年5月に発生したManchester terror attackによって現地が混乱し、安全性の面と入国の面で問題があると思われたため,詳細な分析は次年度以降とした.さらに,材料分析のための工作機械の購入も予定していたが,研究上で必要とするスペックのものがなく、購入を見送ったのも多少影響している。 現在,これらの材料について異なるゼオライト充填量の試験片についての検討,硫酸の温度及び濃度を変化させた環境において実験を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
合成ゼオライトのカチオンタイプによる耐食性の向上効果についてのメカニズムを引き続き検討する. また,前述したとおり,アミン硬化エポキシ樹脂および硬化剤と合成ゼオライトの配合比がかさ密度で50vol%:50 vol%において,耐食性の向上効果が確認されたことから,ゼオライト充填量を変化させた試験片について検討し,耐食性の向上に最適な充填量を検討する.さらに,硫酸の温度及び濃度を変化させた環境において実験を行い,温度-濃度換算即により寿命予測を行う. 次に,この合成ゼオライトを熱硬化性樹脂であるイソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂に充填し,試験環境を水酸化ナトリウム水溶液とした検討を行う.これはイソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂はアルカリ環境において加水分解反応を生じ,腐食層を形成し劣化する.したがって,これまでは酸環境下で行われてきたが,アルカリ環境においてこの合成ゼオライトのイオン交換反応を利用することで,耐食性の向上効果の有無を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はイギリス、マンチェスターのThe University of Manchester,School of Materials, Corrosion and Protection, AkzoNobel Laboratoryにおいて分析する予定であったが,2017年5月に発生したManchester terror attackによって渡航に関して安全性の確保が困難であると思われたため,旅費の使用を次年度にした.さらに,同理由によって,研究者の招へいについても次年度にした. さらに,試験片の分析の為にミクロトームの購入を検討していたが,購入金額,スペック等の問題で購入を延期し,次年度に同効果が得られる高速切断機を購入する予定である.
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