研究課題/領域番号 |
17K05981
|
研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
平岡 一幸 東京工芸大学, 工学部, 教授 (50267530)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 液晶エラストマー / 液晶 / 高分子 / 電傾効果 / フレクソエレクトリック効果 / フィルムディスプレイ / 液晶ディスプレイ / スメクチック液晶 |
研究実績の概要 |
2017年度に引き続き(1) ポリシロキサン主鎖のコレステロール誘導体を側鎖メソゲンとする側鎖型液晶エラストマーと(2)BB-n型の主鎖型液晶エラストマーの配向試料を作成し、電傾効果、フレクソエレクトリック効果、昇降温による自発的変形などの物性を検討した。概要は以下の通り。 (1)側鎖型液晶エラストマーは、一軸延伸下ならびにU字変形下において架橋反応し配向試料を作成した。一軸延伸試料の中央部は、15か所のX線回折から、均一に一軸配向していることがわかった(SmA*エラストマー)。同試料中央部について、電場誘起光軸変化測定システムにより電傾効果の測定を行っている。等方相温度領域のX線回折から、架橋による配向の固定化のためS = 0.1 ~ 0.2の秩序度が残っており、完全な等方相ではなくネマチック秩序を持った擬似等方相であることが分かった。 一軸延伸試料末端部はネッキングにより広がった形状を持ち、広がり変形していることを偏光顕微鏡観察とX線回折により確認した。この末端部試料はスメクチック相から擬似等方相へ転移すると、電界誘起により極性のあるイルカの尾のような変形を呈した。メソゲンであるコレステロール誘導体は楔形の形状で、Gaussianによる計算ではメソゲン長軸方向に1.1debyeの双極子がある。架橋によりフレクソエレクトリック効果を伴った広がり変形が固定化され分極が発生し、その分極が電界応答したと考えられる。 (2)主鎖型液晶エラストマーについて、触媒にTitanium tetrabutoxide を用いてより低温における応力印加架橋反応を試みた。併せて架橋反応時に赤外温度計を用いて材料温度を直接観測した。材料温度140℃程度で架橋反応が進み、得られた配向試料を液晶‐等方相間で昇降温すると140~133 %の可逆的かつ自発的な収縮機能を発現した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」に記載したように、側鎖型液晶エラストマーについては応力印加架橋により一軸配向試料のみでなく広がり変形試料を得た。電傾効果用試料として適した均一な一軸配向試料を得ることに成功した。電傾効果測定ならびに電傾効果によるせん断変形観察については現在進行中である。 広がり変形を伴った試料末端部は、固定化されたフレクソエレクトリック分極の電界応答により極性のあるイルカの尾のような変形(Flukes-like motionと名付けた)を呈する。PETフィルムを近づけたところ擬似等方相になると静電気の引力が生じることを確認した。また、X線回折によりU字変形試料は厚み方向のサンプル内部が広がり変形していることが分かった。クーロンメーターで測定したところ、等方相で最大3000pCの電荷を計測した。このように、フレクソエレクトリック分極を用いた研究については順調に進んでいる。 主鎖型液晶エラストマーについて、触媒にTitanium tetrabutoxide を用いることで、反応温度の低温化に成功した。赤外温度計を用いた材料温度の直接観測も成功し、140℃で架橋した配向試料は、液晶‐等方相間の昇降温時に140~133 %の可逆的・自発的な収縮機能を発現した。 BB-nを合成する際に光架橋剤としてDimethyl 1,4’-phenylenediacrylate(PDA)を加えることで、光架橋が可能な主鎖型高分子液晶BB-n/ PDAを合成した。この前駆体高分子に紫外線(365nm、90mW)を照射し主鎖型液晶エラストマーを合成した。架橋状態を表面赤外分光法(ATR法)とゲル分率測定にて評価した。赤外分光分析からUV照射照射面は60分の照射でほぼ架橋が完了しているが、裏面には360分照射後も若干の未架橋が残っている。両面から240分間UV照射架橋することでゲル分率84%の試料を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
側鎖型液晶エラストマーについては、均一な一軸配向試料と広がり変形試料に分けて、電場印加時変形の検討を行う。楔形形状のコレステロール誘導体メソゲンの他、棒状のメソゲンを試料に加え、組織的な研究を行い総括する。 均一な一軸配向試料については、電場誘起光軸変化測定システムを用いて電場誘起の分子再配列と形状変化の組織的な評価を行う。広がり変形試料については、フレクソエレクトリック効果による分極発生を中心に検討する。主鎖型スメクチック液晶エラストマーについては、熱架橋と光架橋の両面からメソゲンの配向と主鎖の配向を組み合わせた様々な試料を作成し、自発変形メカニズムの解明を行い研究を総括する。具体的な項目は以下の3点である。 (1)電場誘起光軸変化とせん断変形:本件は2017年度の進捗状況が芳しくない。電場誘起光軸変化測定システムを用いて、光軸変化とせん断変形の両面から定量的な観測を行う。両者の結果を比較検討し、電場誘起の分子再配列と形状変化を考察する。メソゲンとして、コレステロール誘導体に加えて棒状メソゲン化合物も検討する。 (2) フレクソエレクトリックの固定化:広がり変形試料として一軸延伸試料末端部とU字変形試料の両方を用いて、フレクソエレクトリック効果による分極発現に伴い発生する静電気をクーロンメーターにより計測する。電界誘起変形(極性のあるイルカの尾のような変形)について定量観測し分極発現と電界誘起変形について総括的に考察する。 (3) 主鎖型液晶エラストマーにおける自発変形メカニズム解明:主鎖型液晶エラストマーの場合、秩序パラメーターが一定のまま自発的・可逆的変形する。自発変形のメカニズム解明するため、①液晶相と等方相、②せん断による配向と引張配向、など主鎖のコンフォメーションが異なる条件下で熱架橋と光架橋の両面から試料作成を行い、自発変形の定量的解析から変形メカニズムを考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費などで少額の差(560円)が出た。次年度に物品費などで使用する予定である。
|