研究課題/領域番号 |
17K05982
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
水谷 義 同志社大学, 理工学部, 教授 (40229696)
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研究分担者 |
廣田 健 同志社大学, 理工学部, 教授 (30238414)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 複合材料・物性 / 機械材料・材料力学 / 結晶成長 / 共沈法 / バイオミネラリゼーション / 高分子 / 有機―無機複合材料 |
研究実績の概要 |
骨をモデルとした複合材料の合成方法として、水溶性高分子とヒドロキシアパタイトの共沈殿による複合化の方法について検討を進めた。これまでは、ヒドロキシエチルアクリレートなどのアクリル系の高分子や、ポリビニルアルコールなどを用いてきたが、これらは水溶性に優れているが、ヒドロキシアパタイトと複合化させると、複合体の耐水性に問題があることが分かった。例えば、ポリビニルアルコールとヒドロキシアパタイトを複合化させた複合体の成形物は、水に室温でつけると、水を吸収し、崩壊した。そこで、水に浸漬しても機械的強度が保たれるような、複合材料の合成を目的とし、エチレンとポリビニルアルコールとの共重合体であるEVOHを水溶性高分子として用いる検討を行った。EVOHでエチレンを29 mol%含む共重合体を用いた。これは、純粋な水には溶解しないが、水―アルコール(1:1)には、溶解し均一な溶液を得ることができる。そこで、ここに、リン酸イオンとカルシウムイオンを加え、pHを調整することでEVOHとヒドロキシアパタイトとの複合体を得た。これを加熱加圧成形し、成形体を得ることができた。このようにして得た複合体の成形体は、水に浸漬させてもほとんど水を吸収せず、機械的強度も変化しない性質を示し、耐水性の有機―無機複合体を得ることに成功した。耐水性の複合材料成形体は、日常の汎用機械材料や、骨や歯の代替材料として応用する場合に有用な特性であり、今回の研究で、その方針を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エチレン―ビニルアルコール共重合体であるEVOHとヒドロキシアパタイト(HAP)との共沈殿による複合化を、EVOH-HAP の重量比が70:30, 50:50, 30:70になるように仕込み比を調整し行ったところ、ほぼ仕込み比と同じ重量比の複合体が81-92%の収率で得られることが分かった。この結果から、EVOHとHAPがほぼ定量的に共沈殿を起こすこと、これは、HAPの結晶核生成がEVOHの表面で起こることを示唆している。HAPが生成していることは、粉末X線回折で確認し、EVOHとHAPとの重量比は、熱重量分析によって確認した。これらの複合体を金型に入れ、120℃で120 MPaの圧力で一軸加圧成形を行ない、角柱型の試験片を作った。この試験片の3点曲げ試験を行ったところ、曲げ強度は、20-61 MPaであり、以前に報告したリン酸化ポリビニルアルコールとHAPとの複合体の曲げ強度とほぼ同等のものであった。また、破断時のひずみは、6-14%であり、脆性破壊をすることも分かった。次に、これらの成形体を室温で24時間水に浸漬させ、吸水率を測定したところ、EVOH-HAP (70:30)は、7%、EVOH-HAP (50:50)は、3%、EVOH-HAP (30:70)は、13%となった。すなわち、EVOH-HAP (50:50)が、最も耐水性に優れた性質を示すことが分かった。また、成形体を水に浸漬後3点曲げ試験を行ったところ、曲げ強度は、EVOH-HAP (70:30)は、24 MPa、EVOH-HAP (50:50)は、56 MPa、EVOH-HAP (30:70)は、2 MPaとなった。EVOH-HAP (50:50)が、浸漬後もほとんど曲げ強度が低下せず、最も耐水性に優れた機械的性質を示すことが分かった。有機-無機の組成比が複合体の耐水性に大きな影響を与えることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で説明したように、耐水性の有機―無機ハイブリッドの合成に成功した。しかし、有機―無機の組成比によって耐水性が変化するので、例えば、高弾性率の複合材料が必要であっても、無機成分の量を増やすと耐水性に影響が出るなどの問題点が明らかとなった。今後、より疎水性骨格を有する高分子についても同様な複合化を行って、耐水性の向上を図る。例えば、ポリエチレンテレフタラートに部分的にカルボキシ基を有する水溶性高分子は、主鎖が剛直で疎水的であり、側鎖のカルボキシ基がヒドロキシアパタイト表面と相互作用すれば、耐水性複合材料として、機械的強度にも優れたものが得られる可能性がある。 また、近年マイクロプラスチックの問題がマスコミでも取り上げられており、より環境負荷の小さい汎用機械材料が必要であると考えられている。水溶性高分子として、デンプンなどを利用してヒドロキシアパタイトなどと複合化できれば、低環境負荷汎用材料となり得る。デンプンとヒドロキシアパタイトとの複合化に関わるいろいろな問題についても解明していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
耐水性評価のためのいろいろなサイズの成形用金型の発注について、研究の進捗状況に合わせて進めていくために、差額が生じている。次年度は、耐水性や機械加工性の評価に適した金型を発注し、合成した複合材料の多面的な評価を行っていくのに、予算を使用する予定である。
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