研究課題/領域番号 |
17K05984
|
研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
松元 深 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 主任研究員 (50416301)
|
研究分担者 |
伊藤 貴敏 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 総括研究員 (60416295)
隅野 修平 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究員 (60783272)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | フラーレン誘導体 / 有機半導体 / 誘電率 / 計算化学 |
研究実績の概要 |
前年度に行った情報・計算化学を用いた分子設計を基に、高い誘電率を示す二置換フラーレン誘導体の合成・評価を行った。C70フラーレンに導入する置換基としてマロン酸エステル誘導体、リン酸エステル誘導体の2種を選択した。これらはBingel反応により低温でフラーレンに付加させることができ、C70フラーレン誘導体の異性体構造のうちα体と呼ばれる構造を選択的に生成した。マロン酸エステル、リン酸エステルの順に逐次反応・精製を繰り返し、異なる二つの置換基が導入されたフラーレン誘導体の合成を行った。核磁気共鳴測定により構造解析を行ったところ、二つの置換基の96.6%がフラーレンにα体構造で配置されていることがわかった。このように、球状に近いC70フラーレンに対し、二つの置換基が直線的に配置された線形二置換フラーレン誘導体を得ることに成功した。 得られた線形二置換フラーレン誘導体の誘電率・電子移動度の評価を行なった。導電性高分子を塗布したITO透明電極上にフラーレン誘導体薄膜を成膜し、真空蒸着によりアルミ電極を作成し評価素子を作成した。この素子に対しインピーダンス測定を行い、誘電率を算出した。その結果得られた二置換フラーレン誘導体の誘電率は従来の誘導体より高い5.88の値を示した。理論計算によって予測された誘電率は6.31であり、本研究における計算に基づく分子設計の妥当性が確認された。また電流-電圧測定により素子に流れる空間電荷制限電流を測定し、Mott-Gurney式により電子移動度を算出した。その結果二置換フラーレン誘導体の電子移動度は8.71x10-6cm2/Vsであった。以上のように、電子移動度は既知のフラーレン誘導体に比べ低い値を示したものの、高い誘電率を有するフラーレン誘導体が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度計画していた二置換フラーレン誘導体の合成、誘電率・電子移動度の物性評価を達成した。二置換フラーレン誘導体の構造については、反応条件を調整することで反応選択性を制御し、異なる二つの置換基をフラーレンに対し対極方向に配置した線形の誘導体が得られたことを確認した。 得られた誘電率は既存のフラーレン誘導体および有機半導体として高い値を示しており、理論計算に基づく分子設計を行ったことで効率的に高誘電性の有機半導体材料の開発が行えることを示した。一方で電子移動度については低い値であった。これは加熱処理など素子の作成条件により改善が期待される他、誘導体の構造純度に依存することが考えられるため、より精緻な構造制御を行い半導体特性を評価することが必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
合成したフラーレン誘導体の構造純度や素子作成条件を精密に検討し、物性値への影響・再現性を評価する。反応条件に関して、反応温度を更に下げることで反応部位の選択性を高め、構造純度を向上させることを検討する。本年度合成した二置換フラーレン誘導体は極性が高く、有機溶媒に対して非常に高い溶解性を示した。そのため優れた成膜性を示したものの、高すぎる溶解性のため精製操作等の取り扱いが困難であった。このため分子構造を調整し、適度な溶解性を持つ誘導体の合成を行う。 また計算によって得られた多数のフラーレン誘導体の予測データを用いて、置換基の双極子モーメントや分極率等と誘電率の相関性について解析を行い、分子設計についての理論的な解釈を行う。また線形構造の誘電率への効果についても計算により検証を行い、成果を取りまとめ論文発表を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた学会が中止となったため旅費の支出を行わなかった。また論文投稿に関してより詳細なデータ収集、再現性の確認の必要性が生じたため投稿費用の支出を行わなかった。当該助成金は追加実験に関する消耗品、論文準備、発表に関する費用として支出する。
|