研究課題/領域番号 |
17K05987
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
澤田 敏樹 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (20581078)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ソフトマテリアル / 生体高分子 / バイオテクノロジー / 界面重合 / ウイルス / 膜分離 |
研究実績の概要 |
望みの分子を分離・回収できる分離膜の創製を目指し、繊維状ウイルス(ファージ)を素材とした液晶性分離膜を構築した。繊維状ウイルス集合構造を固定化して不溶化するため、界面重合の利用を検討した。三分岐の酸クロリドをヘキサンに溶解させ、ファージ水溶液に重層した結果、ヘキサンと水の界面に白色の膜が生成する様子が観察され、ファージが界面で酸クロリドと反応していることが示唆され、界面重合によりファージの集合構造を固定化でき、さらに不溶化できることがわかり、本手法によりファージからなる膜を構築できることがわかった。同様の手法で支持膜上にファージからなる膜を構築することにも成功し、取扱いの容易なファージ膜を構築することに成功した。様々なファージ濃度で膜を構築して洗浄後に走査型電子顕微鏡により観察した結果、一定濃度以上で明らかに支持膜よりも密に集合化している構造体が観察され、ファージが不溶化して膜形成していることがわかった。偏光顕微鏡観察の結果、より高濃度条件下では明確な複屈折性が観察され、濃度によって液晶配向状態が異なることもわかった。この膜の強度や集合構造はファージ濃度のみならず酸クロリドの濃度や分岐数によっても制御することができ、様々な特性をもつファージ膜を構築できることがわかった。 様々な集合構造をもつファージ膜に対して分子量の異なるタンパク質をフローし、その阻止率を定量した結果、効率良く阻止できるタンパク質の分子量と集合構造には相関があり、高濃度のファージ溶液を用いて調製したファージ膜の方がより小さな分子量のタンパク質の通過を阻止できることがわかった。特に、最も高濃度で調製した膜は分子量5000程度のタンパク質の通過も阻止でき、緻密な膜が形成されていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
界面重合により繊維状ウイルス(ファージ)の集合構造が固定化されて不溶化した膜を構築できることがわかり、また支持膜を適切に利用することで取扱いの容易な膜を得ることに成功した。また、様々な特性をもつファージ膜を構築する手法を確立することに成功した。さらに、集合構造の異なる膜それぞれが異なる分離特性をもつことがわかり、様々な分子の分離に適用できることを見出し、初年度の目標を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
構築した液晶性分離膜の構造と分離特性の相関を評価することを目指す。ファージの濃度や酸クロリドの濃度、また反応時間などを変化させて調製したフィルムそれぞれに対し、分子量の異なるタンパク質や金属ナノ粒子を透過させて阻止率を評価する。それらでは十分に阻止率が評価できない場合には、より分子量の小さな低分子化合物を用いて阻止率を評価することも検討する。また、原子間力顕微鏡観察によりファージ分子の集合状態をより詳細に評価することで、ファージ分子の集合状態と分子透過性を比較してファージ膜の分離膜としての利用可能性をより明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
繊維状ウイルスを素材とした液晶性分離膜を調製する手法が予定より早く構築できたため、条件検討に必要と思われた生化学ならびに化学試薬の使用が予定より少なくなった。次年度は、集合構造の異なる膜に対して様々な分子を用いた分子透過実験を網羅的に実施することにより、分離特性を早々に明らかにすることを目指す。
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