研究課題
分子選択的な分離・回収を可能にする分離膜を線維状ウイルス(ファージ)から創製することを目指した液晶性分離膜の構築とその特性を評価した。前年度までに構築した、界面重合を利用して繊維状ウイルスの集合構造を固定化して不溶化した膜を用いた。本年度は、分離特性を詳細に評価するとともに、望みの分子選択的な分離を目指した。分子量1000以下の様々な化合物をフローし、その阻止率を定量した。高濃度のファージ溶液を用いて調製した液晶性分離膜の場合は、分子量400以上の分子は95%以上の高い阻止率を示し、それ以下になると阻止率が低下した。すなわち、本液晶性ファージ膜の分画分子量は400程度であり、極めて小さなサイズの分子分離に利用できることがわかった。さらに、分子量が300程度の分子であっても、カチオン性の分子の場合には、阻止率は75%程度で留まっていたのに対し、アニオン性分子の場合には阻止率が5%以下まで低下し、透過させる分子の荷電状態によって阻止率が大きく変化することがわかった。これは、ファージ表層はアニオン性のアミノ酸に富んでいるため、カチオン性分子はファージ膜を構成するファージ表層と静電的に相互作用できるのに対し、アニオン性分子は静電反発して相互作用することなく通過するためと考えられる。一方で、低濃度のファージを用いて調製したファージが配向していないファージ膜を用いた場合には、分子量900程度の分子であっても既に阻止率は約80%であり、分子量の低下に伴って阻止率は徐々に低下したことから、ファージの液晶配向が分子分離に重要であることがわかった。よりサイズの小さな分子の選択的な分離を目指し、ファージ表層にネオジムイオンに結合するペプチドを導入し、同様にファージ膜を調製した。その結果、ペプチドを導入した場合には、同じ三価の鉄イオンと比較してネオジムイオンを選択的に捕捉できることがわかった。
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Journal of Membrane Science
巻: 595 ページ: 117595~117595
10.1016/j.memsci.2019.117595