研究課題/領域番号 |
17K05988
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小久保 尚 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 特別研究教員 (80397091)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | π共役高分子 / ブロック共重合体 / グラフト共重合体 / イオン液体 / イオンゲル / 下限臨界溶液温度型相挙動 |
研究実績の概要 |
本研究は汎用高分子と、電気化学・光機能を有するπ共役高分子から成るブロック又はグラフト共重合体を合成し、イオン液体と組み合わせることで、新たな機能性物質の創製を目指している。(ここでイオン液体はイオンのみから成る室温付近で液体の物質で、不燃性の電解液である。)得られた高分子溶液や高分子ゲルの基礎物性を解明し、電気化学又は光化学デバイスへの応用展開を目論んでいる。一般的にπ共役高分子はイオン液体に不溶であるが、イオン液体が可溶な汎用高分子をπ共役高分子の側鎖に結合させたグラフト共重合体はイオン液体に可溶となる。また、ブロック共重合体はイオン液体中で凝集し、汎用高分子はイオン液体と相溶するため、π共役高分子の凝集体が物理架橋点として機能するゲル、すなわちイオンゲルが得られる。 本研究ではπ共役高分子としてポリチオフェン(PTh)、汎用高分子として水中やイオン液体中で下限臨界溶液温度(LCST)型相挙動(低温相溶、高温相分離)を示すポリ(エチルグリシジルエーテル)(PEGE)を選択し、グラフト共重合体(PTh-g-PEGE)を合成した。得られたグラフト共重合体を水やイオン液体に溶解させた溶液は、低温では相溶し、高温では相分離(水中:液-固相分離;イオン液体中:液-液相分離)し、側鎖のPEGEの性質が反映された。イオン液体中では液-液相分離のため、蛍光強度は相転移温度以上で40%程度低下しただけであった。それに対し、水中では液-固相分離のため、相転移温度以上で溶液は白濁し、蛍光強度はゼロとなった。この蛍光強度変化は5~14 ℃という狭い温度領域で観測されたため、熱刺激による発光のスイッチングが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではπ共役高分子と汎用高分子から成る共重合体を、イオン液体と融合させることで新たな「電子/イオン伝導性高分子電解質」の創製を目指しているが、π共役高分子の光機能にも注目している。昨年度までにPThとポリエチレンオキシド(PEO)のグラフト共重合体(PTh-g-PEO)をイオン液体に可溶化させ、溶媒によって様々な発光色(最大蛍光波長=520~576 nm)を示すことを見出してきた。今年度はさらなる機能化を目指し、温度応答性の側鎖を導入させることで、蛍光スイッチングの可能性を検討した。イオン液体中では側鎖のPEGEはLCST型相挙動を示すが、液-液相分離のため相転移温度以上でもPTh主鎖は紫外光に晒され、大きな蛍光強度の低下は観測されなかった。これに対し、水中では液-固相分離のため、相転移温度以上では溶液は完全に白濁し、主鎖のPThは固体のPEGEで覆われ、蛍光が観測されなかった。この相転移温度は塩添加などで調整可能であり、また10 ℃以内という比較的狭い温度領域で相転移が完了するため、光スイッチングの可能性が示唆された。 さらに相転移温度以下の高分子の水溶液中で、アクリルアミド+架橋剤で重合を行うことでポリアクリルアミドネットワーク内にPTh-g-PEGEが固定化された構造、すなわち半相互侵入高分子網目構造を有するハイドロゲルを作製した。このゲルは低温において、透過率が約80%であり、やや濁っているものの蛍光を示した。これに対し、相転移温度以下では完全に白濁し蛍光強度もゼロであった。溶液と同様に熱刺激によってゲル膜の発光スイッチングが可能となった。 以上のことより、進捗状況は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに合成したPTh-PEOマルチブロック共重合体を用いたイオンゲルは、電子/イオン伝導性高分子電解質であることを示したが、その相分離構造と電子・イオン伝導性、力学特性の関係について整理されていない。今年度はその関係性を解明することに注力する。 本研究で用いているPThとPEOの分子量はそれぞれ制御しているが(PDIが1.4以内)、現状のマルチブロック共重合体はPThとPEOの結合数(すなわち共重合体の分子量)の制御が困難である。これは明確な相分離構造を得るためには不利であることが予想される。そこで共重合体の分子量分布が均一なPTh-b-PEO-b-PThトリブロック共重合体を合成し、イオン液体と複合化することでイオンゲルを作製する。 そして、得られたイオンゲルを高分子アクチュエータ電極に適用する。高分子全体に粒界が存在しないため、これまでに我々が報告してきた活性炭などを用いたイオンゲル電極を用いたアクチュエータに比べ、高速応答や大きな変位が観測されることを見込んでいる。
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