研究課題/領域番号 |
17K05990
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
金 慶孝 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (30504550)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 繊維材料 / 延伸 / ボイド繊維 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、経験値として分かった延伸条件(延伸倍率、送出速度、レーザー出力の変化及び分子量依存性)によるPET繊維のボイド形成メカニズムを確認した。ボイド形成に分子量依存性を確認するため、固有粘度(以下、IV)が異なる3種類のPET繊維での延伸を行った。 1. 繊維材料の分子量がボイド形成におよぼす影響 分子量が低いほどボイド分率の大きい繊維を作製しやすく,逆に分子量が高いほどボイド分率が高くなり難い.ただし、形成されるボイドの数への影響は小さい.したがって,直径測定結果から数%のボイド分率が推定されるにもかかわらずSEMによる断面観察でボイドが確認できなかった高分子量繊維でも,SEMで観察できないサイズのボイドが形成されている可能性は十分考えられる.分子量の効果は主にボイドの成長速度に現れ,分子量が小さい繊維ほど個々のボイドが速く成長するため,結果としてボイド分率が高くなると考えられる.分子量が小さいほどボイドが成長しやすいのは,分子鎖末端の数が増えるため,絡み合い点やフィブリル間での滑りが起きやすくなると考えれば説明できる.
2. 延伸時におけるボイド形成メカニズム 今年度の研究結果をまとめることにより,延伸時の繊維内部ボイド形成に関して,メカニズムを考え、提案することが出来た.すなわちボイド形成にはある程度の時間を必要とするため,ボイドが形成される前にネック変形が終了するとボイドが形成されないが,ネック変形に要する時間がボイドが形成されるのに十分な時間を超えるとボイドが形成される様になり,さらに長くなるとボイドが大きく成長する.繊維材料の分子量は,ボイドが形成されるのに必要な時間より,その後の成長速度に強く影響する.また、ボイドの数に差は出にくいが,分子量が高いほどボイドが成長する時間は長くなり極めて小さいボイドとなる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レーザー加熱の延伸条件、すなわち、延伸倍率、未延伸糸の送出速度、レーザー出力の変化及び分子量依存性によるボイド形成メカニズムを確認した。この結果をまとめてH30年繊維学会年次大会と秋季大会での発表を行った。 しかし、SPring-8の超高輝度X線源による超小角X線散乱のその場測定によるPET繊維のネック変形直後のUSAXS撮像および解析を行ったところ、赤道、子午線双方に対するストリーク状散乱とLayer-lined streakが観察された。このうちネック変形直後(0.3ms以内)でのみ観察される子午線散乱はクレーズ形成、同じ時間帯で成長する赤道ストリークはフィブリル構造形成を反映している可能性が高い。ただし、このUSAXS測定では、赤道上に残存した繊維表面からの全反射によって、フィブリル構造の解析を行う上で最も重要な赤道ストリークの解析に支障を来したのに加え、実験時間の制約から時間分解能が不足していた。直径40-50 μmの繊維にスリット光学系を用いて10×10 μmのマイクロビームを照射したため、寄生散乱により全反射が残存したと考えられる。 一方、SPring-8の超高輝度X線源(フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体(FSBL)において、寄生散乱の影響を最小化でき、それでいながら強度の大きな「屈折レンズ集光型のマイクロビーム」が装備されたことを知った。このビームを利用すれば、上記の寄生散乱の問題と時間分解能の問題を一挙に解決できる可能性が有る。屈折レンズ集光型マイクロビームを利用したUSAXS測定にチャレンジするため、FSBLのアドバンス・ビームタイム活用テーマの募集2019Aに応募し、すでに採択され、7月12日の実験のため、予備実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
FSBLのアドバンス・ビームタイム活用テーマの募集2019Aに応募し、先月採択結果を頂き、また、実験日も7月12日の3シフト(24時間)で決めて頂いた。今年度研究により、レーザー加熱の延伸条件、すなわち、延伸倍率、未延伸糸の送出速度、レーザー出力の変化及び分子量依存性によるボイド形成メカニズムを確認した時、 分子量依存性による影響が大きいことが分かった。 また、FSBLの屈折レンズ集光型のマイクロビームの設置によるX線のカメラ距離の確認など、ビームライン内の構造的な寸法に関する情報をビームライン担当者から頂いている。これをもとにし、我々の延伸装置、光学系、設置条件などに関して検討を行っている。 また、PET繊維のボイド形成に関する分子量依存性も明らかにするため、固有粘度IVが異なる3種類の繊維の紡糸、予備延伸などを行い、最適な実験条件を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
レーザー加熱の延伸条件の実験を行う時、分子量依存性とXCT測定による断層画像の測定に集中した。また、SPring-8のFSBLアドバンス・ビームタイム活用テーマの募集の応募時期が遅くなり、SPring-8での実験が出来なかったので、未使用額が生じた。来年度ではFSBLのアドバンス・ビームタイム活用テーマの募集2019A に採択され、実験を行うので、H31年度の請求額と合わせて、消耗品購入に使用する。
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