研究課題/領域番号 |
17K05991
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
荒木 潤 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (10467201)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | セルロースナノウィスカー / 湿式紡糸 / 繊維 / ヤング率 / 引張強度 |
研究実績の概要 |
鉄やガラス繊維を超える強度および弾性率を有する天然セルロース微結晶であるセルロースナノウィスカー(CNW)を紡糸原液として湿式紡糸を行い、100%結晶領域のみからなる繊維の調製を試みた。 紡糸原液のCNW懸濁液固形分濃度を10-15%、凝固浴としてCaCl2を2.5%含む70%メタノールを用いることによって、ゲル状の繊維を得ることができ、乾燥して繊維を得た。繊維の引張強度や弾性率は遷移中のCNWの配向度が上がるに連れて増加した。また、得られた繊維をいったん水洗した後に乾燥するとさらに強度および弾性率が増加すること、その際に表面硫酸エステル基に由来する硫黄原子とカルシウム原子のモル比が2:1となることがわかった。これらの結果は、CNW間に挟み込まれている過剰のカルシウム塩が洗浄により除かれるとCNWどうしの水素結合形成により強度および弾性率が増加すること、またCNW表面の硫酸エステル基がCa2+カチオンを介したイオン結合によって結ばれていることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
CNW水懸濁液の湿式紡糸に必要な条件、すなわち紡糸原液CNW濃度、凝固浴の種別、凝固浴に含まれる塩の濃度、などの条件を広く探索し、紡糸が可能な条件の範囲を見出すことができた。これらの条件範囲の中で、繊維の弾性率、強度、CNWの配向度などを測定する手法を確立し、上記の紡糸条件とCNW配向性ならびに繊維力学物性の相関について議論することができた。さらに、実験当初には想定していなかった新しい結果として、過剰の電解質の存在がCNW間の結着を弱めているがそれらは推薦により除去可能であること、水洗の後に確かに力学物性が向上すること、また表面硫酸エステル基とCa2+の化学量論比からCNW間イオン架橋の存在を定量的に議論することなどを見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
硫酸エステル基以外の官能基(例えばカルボキシ基)を有するCNWについても同様に架橋が可能かどうか、条件を探索する。CNWの表面カルボキシ基はTEMPO酸化法により幅広く制御可能なため、表面電荷量とCNW配向性および繊維力学物性との関連について議論する(この研究は同時に、後述の表面に架橋機を導入して表面カルボキシ基が減少したCNWの紡糸可能性について検証することにもつながる)。CNW間を架橋してさらに力学物性を向上するために、二官能性の化学架橋剤による架橋および表面への架橋可能官能基(イミダゾリド基など)を導入し、紡糸語の加熱によって架橋が可能か試みる。さらに、より結晶化度が高くサイズの大きいCNWを異なるセルロース源(ホヤ・ナタデココなど)から作製し、紡糸を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
湿式紡糸の条件探索がスムースに進み、また、紡糸に必要な凝固浴溶媒のスケールが想定していたよりも小さくて済んだため、試薬および器具に必要とされる金額が想定より少なかった。次年度以降、同様に試薬・セルロース資料・実験器具(特に紡糸装置の充実)に充当する他、関連学会参加費用などに充当する予定である。
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