研究課題/領域番号 |
17K05992
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
金山 直樹 信州大学, 総合医理工学研究科, 准教授(特定雇用) (80377811)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | DNA / マイクロ粒子 / 水和 / スタッキング / 光ピンセット / 粒子間力 |
研究実績の概要 |
昨年度までの検討で、表面がDNAブラシで覆われたマイクロ・メートルサイズのコロイド粒子(DNAコロイド)が、高濃度のNaCl水溶液中において表層配列選択的な分散凝集挙動を示すことを確認し、さらに当該DNAコロイド粒子間では表層配列に依存した特異なDNAブラシ間相互作用が生じることを光ピンセットを用いた粒子間力計測より明らかにした。本年度は、測定対象とするDNAブラシの表層配列のバリエーションを更に増やし、DNAコロイドの粒子間力計測を実施した。その結果、表層に対合した核酸塩基をもつDNAブラシ間でのみ、高濃度のNaCl水溶液中において引力的な相互作用が生じるという現象の一般性を確認することができた。一方、DNAコロイド表面の荷電状態を反映するゼータ電位計測では、同濃度のNaCl水溶液中で計測値を比較するとDNAブラシの表層配列に依らずほぼ同等であることがわかった。このことは、高濃度のNaCl水溶液ではDNAブラシ間で生じる相互作用が、その荷電状態以外の因子によって支配されていることを意味する。そこで、NaCl以外のアルカリ金属塩化物(LiCl, KCl, CsCl)の水溶液中におけるDNAコロイド粒子間力を計測し比較したところ、同一濃度(イオン強度)条件において、LiCl > NaCl = KCl > CsClの順に引力的相互作用が強くなることがわかった。アルカリ金属塩のカチオンに着目すると、今回の検討で観測されたDNAブラシ間引力の強さの序列は、従来、カチオンに関して報告されてきたHoffmeister系列と傾向が概ね一致する。以上の結果は、DNAブラシ表層の脱水和がトリガーとなって、末端塩基対間のπ-スタッキングに起因するDNAブラシ間引力の発生に繋がる「水和スイッチ」コンセプトの妥当性を示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNAコロイド間に生じる粒子間力を定量的に計測する手法を確立し、その系統的な評価から本課題で提案する「水和スイッチ」コンセプトの妥当性を実験的に示すことができた。また、外部刺激によりDNAブラシ表層の水和状態が変化するシステム構築の目処が立ちつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討結果を踏まえ、本課題の最終目標である、特定の外部刺激によりDNAブラシ表層の局所的な水和状態を制御可能な「水和スイッチ」を具体化し、その動作をDNAコロイドの分散挙動、およびDNAブラシ間力計測から実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題を遂行する上で主要な分析装置に不具合が発生し、装置が完全復旧するまでに非常に長い時間がかかった。この間、予定していた検討を実施することができず、研究計画に大幅な変更が生じることになった。次年度使用額は、主に物品購入費および成果発表費として使用する計画である。
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