本課題は、DNAブラシ表層で誘起される局所的な水和状態の変化に基づき、DNAブラシ間に働く相互作用を制御する「水和スイッチ」の創出を目的としている。これまでの検討において、DNAブラシ間に生じる相互作用は、当該ブラシ層で覆われたコロイド粒子(DNAコロイド)の分散凝集状態、さらには光ピンセット法を用いた粒子間力計測から評価できることを示してきた。これを基に、最表層に対合した核酸塩基(GCペア、ATペア)をもつDNAブラシ間には、水溶液の塩濃度の上昇に伴って引力的な相互作用が発生し、その強さは塩の種類に依存性を示すことを明らかにした。同一濃度のアルカリ金属塩水溶液で比較すると、DNAブラシ間引力の序列は、従来アルカリ金属イオンに関して報告されてきたHofmeister系列と概ね傾向が一致した。一方で、DNAブラシの表面電荷はアルカリ金属塩の種類に因らず、同一塩濃度の水溶液中では同等であった。これらの結果は、塩濃度の上昇に伴なうDNAブラシ間引力の発生には、最表層の核酸塩基近傍の局所的な水和状態が大きく影響していることを示しており、本課題で提案した「水和スイッチ」のコンセプトの妥当性が支持された。さらに、外部刺激によりDNAブラシ表層の局所的な水和状態を一定温度・イオン強度下で制御する手段として、可逆的な光異性化挙動が知られるアゾベンゼン誘導体をDNAブラシ表層に導入した光駆動型の水和スイッチを考案した。当該スイッチを導入したDNAコロイド粒子は、一定温度・イオン強度下で光刺激に応答して可逆的な分散-凝集変化を示した。この挙動は、DNAブラシ表層の塩基対合に対応した局所的な水和状態が光刺激により変化し、DNAブラシ間相互作用に反映されたことを示すものである。
|