研究課題/領域番号 |
17K05993
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西田 幸次 京都大学, 工学研究科, 准教授 (80189290)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高分子・繊維加工 / 高次構造制御 / 非平衡性 / 部分融解再結晶化 |
研究実績の概要 |
一般に高分子は平衡状態に至ることが困難な物質であり、特に結晶性高分子の非平衡性は融点の低下として現れる。結晶サイズが無限大のときの理想的な融点(平衡融点)を上限値として、理論的には、結晶サイズに応じて平衡融点未満の様々な値を示すはずである。しかし、通常報告される融点は、高分子の種類毎にほぼ決まった値である。例えば、ポリプロピレンの通常の融点は約165℃とほぼ固定している(平衡融点は約185℃)。その主な理由は、結晶化過程で生成する結晶サイズが速度論に強く支配されるためである。高分子の種類毎に結晶化速度が最も速い温度域が決まっており、溶融状態からの冷却過程でその温度域を通過した際に生成する多数派の結晶サイズ(ラメラ厚)が通常の融点を支配する。したがって、結晶性高分子の通常の自己組織化による高次構造は、この速度論で支配された構造ということになる。 本研究の主題である「人工的高次構造」は、極論すれば、この速度論に支配された通常の状況から、出来るだけ離れた状況を作りだすことと言える。これを達成するには、速度論に支配された状況における構造形成が進行するよりも速くその状況を通過し、速度論的には不利な状況での構造形成を促進させることである。その目的を達成するには、高速の温度変化装置が必須である。今年度は、上述の高速の温度変化装置を最大5段階の温度ジャンプが可能となるように拡張し、前年度までに得た基礎データに基づいて、さらなる高度な構造制御を行った。その成果の一部は学会にて報告した[繊維学会秋研2018]。詳細は、現在までの進捗状況の項目で述べる。 また、高分子としては、非常に高い通常融点(~ 305 °C)を有するpoly(3-methylbutene-1)の結晶化の共同研究に高次構造制御の立場から参画し成果を得た[Polym. J. 2019]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請前の予備実験でも用いたポリヒドロキシ酪酸(PHB)を試料として用いた。今年度は、前年度まで試料として用いてきたポリヒドロキシ酪酸(PHB)に加えて、実用に用いる際に耐熱性が高いポリ乳酸(PLLA)も研究対象に加えることとした。上述の多段階の温度ジャンプ装置(自作)、ならびに、本予算で購入した最大150 °C/minまでの一定速度での昇・降温が可能な装置を用いて研究を進めた。PHBに多段階の温度ジャンプを適用することで、これまでに作成の実績のあるリング状の結晶に加えて[繊維学会秋研2018]、結晶領域中にリング状の溶融状態(非晶)の領域を作成することにも成功した。また、前年度に行ったDSC実験により、昇温速度が遅い場合には、最初に低温で結晶化させた結晶の融点の方が返って上昇するという現象を見出した。この考えに基づきPLLAに高・低の結晶化温度を与えたのちに、様々な一定の昇温速度を与えて顕微鏡観察したところ、1 °C/minという遅い昇温により、本来高い融点を有するはずの高温結晶化領域が融解し、逆に本来低い融点を有するはずの低温結晶化領域が結晶リングとして残る「逆転リング」の作成に成功した。 また、PHBに対して高速DSC実験を行い、結晶化直後の融点(融点制御の範囲の低温側の極限値)を明らかとした。これにより、人工的高次構造をデザインする際の極限の一方をおさえたことになる。
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今後の研究の推進方策 |
前項で述べた、PHBの結晶リングと非晶リング、ならびに、PLLAの逆転リングの生成に関するデータをより広範囲な条件に対して詳細に調べ、結晶リング、非晶リング、逆転リング、多重リング等の様々な人工的高次構造が最も生成し易い条件、ならびに、有限時間内で制御可能な高温側の極限を明らかとする計画である。本年度は最終年度であるので、得られた成果を項目毎にまとめて国際誌で報告する予定である。 上述の成果は、PHBやPLLAなどの比較的結晶化速度が遅いバイオベースの結晶性高分子に対するものであるが、今後は、アイソタクチックポリプロピレン(iPP)やポリブチレンナフタレート(PBN)などの結晶化速度が速い合成高分子へも、本手法が適応可能かを調べる予定である。合成高分子での本手法による人工的高次構造が可能となれば、工業的な利用価値が期待できる。
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