本研究の目的は再生可能な植物油脂を出発物質に用い、他の高分子と複合化することでバイオベース形状記憶性材料を開発することである。 これまで植物油脂として主にエポキシ化大豆油を用いてポリ塩化ビニルと複合化することで、形状記憶性を有する複合材料が得られることを見出してきた。令和2年度はエポキシ基の数の異なるエポキシ化油脂を新たに合成し、油脂ネットワークが形状記憶性に与える影響を調査した。 大豆油は不乾性油であり、一分子当たり約4個の不飽和基を有している。そこで一分子当たりの不飽和基数が約6個のアマニ油と約2.5個のパーム油を選択し、m-クロロ過安息香酸をエポキシ化試薬を用いて植物油脂のエポキシ化を行った。得られたエポキシ化油脂とポリ塩化ビニル、重合開始剤をテトラヒドロフラン中で任意の割合で混合し、キャスト法により溶媒を留去した後、加熱することで複合材料を得た。 エポキシ化パーム油を用いた場合には油脂の架橋反応は進行したものの硬化反応は不十分であり粘着性のある材料となった。一方、エポキシ化アマニ油を用いた硬化反応は進行し、淡黄色透明の複合材料となった。エポキシ化大豆油を用いて合成した複合材料と比較して硬質であった。示差走査熱量分析(DSC)を行ったところ、油脂成分に由来するガラス転移温度もエポキシ化アマニ油を用いた複合材料の方が高く、油脂ネットワークの架橋密度が大きくなったことが確認された。形状記憶特性の評価を行ったところ、形状回復温度が高温側へシフトし、形状回復も速やかに進行することがわかった。以上の結果は本複合材料ではポリ塩化ビニルは形状固定、油脂ネットワークが形状回復機能を担っており、油脂ネットワークのエントロピー弾性が形状回復の駆動力となっていることを示唆している。
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