研究課題/領域番号 |
17K06007
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐光 貞樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, 主任研究員 (80432350)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 構造色 / ポリ塩化ビニル / 屈折率 / クリスチャンセン効果 / 光散乱 / 多孔質 / 微粒子 / 色材 |
研究実績の概要 |
申請者は、白色のポリ塩化ビニルの多孔質微粒子に無色透明なスチレンモノマーの液体を含浸すると、この固体懸濁液が鮮やかなオレンジ色の発色を示すことを見出した。この発見に着想を得て、本研究課題を立案した。当初は、光の照明方法によって色が変化することから、色素のような光の吸収現象による着色ではなく、構造色のように屈折率の空間変化によって生じる着色現象と推測していた。そこで、これが新規な光学現象かどうかを確認するために、異分野の研究者への聞き取り調査や広範な文献調査を行なった。その結果この現象は残念ながら新規現象ではなく、100年以上前に報告されていたクリスチャンセン効果と呼ばれる既知の発色現象である可能性が示唆された。 クリスチャンセン効果は、屈折率が近くてアッベ数が大きく異なる2成分の物質が相分離した界面を持つ多成分材料で見られる。異なる物質において、屈折率の波長分散がある特定波長だけで交差すると、交差波長のみで屈折率が一致して光が透過し、他波長では屈折率の不一致により界面で光が強く散乱される。そのために、この材料を白色光で照明すると、波長に応じた強度で透過光と散乱光に分離して、着色して見えるようになる。クリスチャンセン効果は、アッベ数の小さな有機液体中にアッベ数の大きな無機微粒子を分散した微粒子分散系の光学現象として100年以上前に研究されてきたが、高分子などの有機微粒子では研究例が少なく、ほとんど知られていなかった。そこで本提案では、多孔質な高分子微粒子にアッベ数の小さな有機液体を含浸した、全有機液体材料系でのクリスチャンセン効果の研究を行ない、その光学特性を明らかにすることを目指している。昨年度までに、塩化ビニル粒子に有機液体を含浸したときのクリスチャンセン効果を詳細に検討し、その研究結果を学術論文として発表してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、光学分野やガラス分野など異分野の研究者への聞き取り調査と詳細な文献検索を行ない、今回の発色現象がクリスチャンセン効果と呼ばれる既知の光学現象である可能性を見出した。この調査結果を踏まえて光の透過や散乱特性についての検証実験を行ない、今回の発色現象がクリスチャンセン効果であることを確認した。昨年度は、スチレンモノマー以外の有機液体を使った場合の光学特性・屈折率に関する詳細な追加実験・ミー散乱理論に基づく光学特性計算を行ない、得られた実験結果が数値計算でもよく再現できることを確かめた。クリスチャンセン効果の実験によって得られた塩化ビニル粒子の屈折率は文献値やキャストフィルムで測定した屈折率よりも大きく、懸濁重合で得られた塩化ビニル微粒子は、特異なミクロ構造を持つことが示唆された。これらの結果を学術論文にまとめ、エルゼビア社の「Polymer」に出版した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、塩化ビニル微粒子に有機液体を含浸した固体分散液体のクリスチャンセン効果について基礎科学の立場から研究を行なった。クリスチャンセン効果の基本特性は把握きたので、次段階として応用研究を行なうこと目指すことにした。昨年度までの基礎研究で使用していた有機液体は、人体に好ましくない性質をもち、応用には適さない。そこで、本年度は、材料の固体化、すなわちクリスチャンセン効果を発現する全固体材料の実現を目指す。具体的には、アッベ数の大きな固体微粒子を、アッベ数が大きくて重合できる反応性液体モノマーに添加して、重合反応によって高分子コンポジット化することを検討する。固体微粒子と重合後の高分子マトリックスの屈折率・アッベ数を予測し、屈折率の波長分散が可視光範囲内で交差するような材料系を探索し、実際に試作と評価を行なう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた物品の購入を今年度に行なうことにしたため。
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