申請者は、複数成分の屈折率マッチングにより透明ポリマーブレンドの作製を試行していた。その過程で、白色のポリ塩化ビニルの多孔質微粒子に無色透明なスチレンモノマーの液体を含浸すると、この固体懸濁液が鮮やかなオレンジ色の発色を示すことを偶然見出した。この発見に着想を得て、本研究課題を立案した。当初は、光の照明方法によって色が変化することから、色素のような光の吸収現象による着色ではなく、構造色のように屈折率によって生じる呈色現象だろうと推測した。文献やデータベースで類似現象を詳細に調査し、この現象が100年以上前に報告されたクリスチャンセン効果と呼ばれる発色現象の可能性を突き止めた。本研究では、発色現象について多面的な実験を実施し、既報のクリスチャンセン効果の特徴と定量的に比較・検証した。 クリスチャンセン効果は、屈折率が近くてアッベ数が大きく異なる2成分の物質が相分離した界面を持つ多成分材料で見られる。異なる物質において、屈折率の波長分散がある特定波長だけで交差すると、交差波長のみで屈折率が一致して光が透過し、他波長では屈折率の不一致により界面で光が強く散乱される。そのために、この材料を白色光で照明すると、波長に応じた強度で透過光と散乱光に分離する。その両者は補色の関係になる。白色光照明の透過光と散乱光が異なるスペクトルになるため、着色して見える。クリスチャンセン効果は、アッベ数の小さな有機液体中にアッベ数の大きな無機微粒子を分散した微粒子分散系の光学現象として100年以上前に研究されてきたが、高分子などの有機微粒子では研究例が少なく、ほとんど知られていなかった。本課題では、塩化ビニル粒子に有機液体を含浸したときのクリスチャンセン効果を詳細に検討し、その成果を学術論文にまとめ発表した。
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