研究課題/領域番号 |
17K06008
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研究機関 | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
研究代表者 |
宮崎 司 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 次長 (70789940)
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研究分担者 |
竹中 幹人 京都大学, 化学研究所, 教授 (30222102)
山本 勝宏 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30314082)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 粘着剤 / 剥離力 / ブロック共重合体 / 中性子反射率 / 斜入射小角X線散乱 |
研究実績の概要 |
ブロック共重合体粘着剤の粘着メカニズムを解明し、強接着・遅延接着機能をもつ新規機能性粘着剤の設計提案をおこなうことを目的にしている。これまでの検討で、粘着剤成分としてポリブチルアクリレート(PnBA)をもち、もう一方の成分としてポリメチルメタクリレート(PMMA)をもつ市販のトリブロック共重合体粘着剤をPMMA板に貼り合わせた後、140℃でエージングすると、粘着力が10分ほどで急激に上昇することがわかっている。粘着剤/被着体界面に、被着体と相溶性の高い粘着剤中のPMMA成分が偏析することによってできたと思われる水平配向ラメラ構造が形成されることから、PMMA成分の偏析によって界面自由エネルギーが小さくなったことが、本粘着剤がPMMA板と強固にくっつく原因である、と推測している。 本年度はこのメカニズムを検証するためにまず、本現象を種々の手法を使って詳細に観察した。モデル試料として、粘着剤成分のPnBAを重水素化した成分(dPnBA)と、PMMA成分をもつジブロック共重合体粘着剤などを合成した。これらのモデル粘着剤を薄膜にしPMMA薄膜で上下を挟んだ3層膜を作製した。この3層膜のエージング前後の試料を、中性子反射率(NR)と斜入射小角X線散乱(GISAXS)、2次イオン質量分析、電子顕微鏡観察などで詳細に調べた結果、エージング前は粘着剤層中のラメラ構造はランダムであったが、エージング後は水平配向構造を取ることが分かった。また上下のPMMA層との界面には粘着剤中のPMMA成分が偏析していることもわかった。そこでNRとGISAXSによりエージング中のその場観察をおこなった。結果として、約10分程度で粘着剤層の水平配向ラメラ構造が完成することがわかり、ラメラの水平配向すなわち、界面自由エネルギーの低下と粘着力が増加する時間スケールが一致したので、上記の推測が確証されたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粘着剤の重合環境が確立した。研究のきっかけとなったPnBA-PMMA系での強接着・遅延接着性のメカニズムは平成29年度の研究によって明確になったと考える。ここまでの研究内容は早速論文にまとめることができた。このメカニズムが一般的なブロック共重合体粘着剤に適用できることをさらに2~3の系で確認する。そのための粘着剤と被着体の選定をおこなっている最中である。試料合成の環境は構築できたので、今後早急に具体的な系を明確にする。系が明確になれば必要になる重水素化粘着剤の合成のための重水素化モノマーの購入が平成30年度にずれ込んでしまったため、予算執行が遅れているが、当初計画の範囲内である。また評価技術の構築については、中心となる中性子反射率測定では、解析方法が確立できた。また実験に関しても2018A期のJ-PARC MLFにおけるBL16反射率計の課題申請が採択されており、また2018B期についても装置課題枠で実施できる環境は確立している。斜入射小角X線散乱測定についても、SPring-8 BL03XUの平成31年度9月までのビームタイムが確保されているので問題はない。
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今後の研究の推進方策 |
今後PnBA-PMMA系だけではなく、2~3の系で被着体と相溶性の高い成分の偏析を利用した強接着・遅延接着機能の検証を行う。そのための粘着剤と被着体の選定をおこなっている最中である。 またPnBA-PMMA系でエージング後の粘着力上昇を確認したのは、市販のトリブロック共重合体粘着剤であり、3層膜で界面をモデル化し、現象を種々の方法で観察したのは、あくまでモデル試料として重合した重水素化成分を含むジブロック共重合体粘着剤である。そこで実際の粘着力と界面観察を同じトリブロック共重合体粘着剤で評価するべきである。そのため現在PMMA-dPnBA-PMMAトリブロック共重合体粘着剤の大量合成を検討中である。粘着力の評価には数十g以上の大量合成が必須だからである。重水素化成分を含むブロック共重合体粘着剤の大量合成は、研究代表者または研究分担者の所属する研究機関規模の実験室では難しいことは当初からわかっていた。そこで調整した結果、現在企業の協力を得て大量合成が進められそうな状況にある。 またジブロック体とトリブロック体でも粘着力は大きく変わると想定しており、この検証のために必要なジブロック体の合成も、やはり企業の協力を得て目処が立ってきた。「現在までの進捗状況」の項で述べたとおり、評価技術についてはすでに確立し、課題は今のところない。
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次年度使用額が生じた理由 |
ブロック共重合体粘着剤の強接着・遅延接着性の検証に必要な新規ブロック共重合体粘着剤合成に必要な重水素化モノマーの購入を計画していた。しかし具体的にどんなブロック共重合体を合成するのか、という選定作業が遅れたため、重水素化モノマーの購入ができなかった。 現在、研究分担者と密に協議し、候補が絞り込まれてきたため、次年度早急に購入できる状況。 またすでに検証できたPnBA-PMMA系については、粘着力を測定するための試料を大量合成する予定であったが、合成法の検討が終わらなかったため、やはり重水素化モノマーの購入が遅れたが、企業の協力を得ることができ合成に目処が立ったため、近々重水素化モノマーを購入する。
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