研究課題/領域番号 |
17K06013
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
村上 達也 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 技術専門職員 (90397232)
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研究分担者 |
増田 貴史 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 講師 (70643138)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シリコンカーバイド / 溶液 |
研究実績の概要 |
本研究では、シクロペンタシラン(CPS)と炭素化合物を出発物質とした「半導体SiCの前駆体液体」である「液体SiC」の創出と、その反応機構の解明に取り組んだ。出発物質であるCPSは通常、炭素化合物と反応しないものの、室温遮光状態で1週間放置したCPSに365nmのUV光を照射した状態で炭素化合物を添加すると、速やかに反応を起こす。初年度はこの反応機構の解明に取り組んだ。室温遮光状態CPSの変化を追跡したところ、室温状態で徐々にCPSダイマーを形成し、このCPSダイマーが365nmの光を吸収する事を明らかにした。CPSモノマーは365nmに吸収を持たないため、UV光照射はCPSダイマーに影響を与えている。過渡吸収測定から、光吸収したCPSダイマーからsilylないしはsilyleneが生じている事を明らかにした。silyleneトラップ剤の添加で光反応が大きく阻害されることから、silyleneは反応に寄与している事が分かった。一方でsilylは時間依存密度汎関数法の計算から、365nm付近に吸収ピークを示す事が分かり、これも365nmの光照射によって反応に寄与している可能性がある。CPSダイマー等の高次シランの存在が光反応には重要である。そこでCPSモノマーに予め重合した高次シランを添加し、365nmUV光照射条件下で炭素化合物を混合する事で、Si-C結合を含む液体物質が安定的に再現性よく得られた。この液体のFTIR測定から、系内にSi-C結合が形成されている事を確認した。またこの液体を脱水素化することで、良質なSiC物質が得られる事も確認した。以上のことより、「液体SiC」の創出において光照射によって発生したsilylもしくはsilyleneがSi-C結合を介して炭素化合物を取りこむと結論付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今まで謎に包まれていたCPSの光重合過程の反応機構の一端を明らかにする事ができた。特に光反応の起点になるのがCPSモノマーでなく、CPSダイマーである事を明らかに出来た事は、Si-C形成の反応機構を考える上では極めて貴重な情報である。更に過渡吸収スペクトル測定によって、CPSダイマーからラジカル活性種が発生している証拠を掴む事ができた。silyl, silylene, sileneのいずれかが優先しているのかはまだ明らかにはなっていないが、これは次年度の実験の中で明らかになってゆくと考えている。ラジカル活性種の種類についてはsilyl, silylene, sileneが候補に挙がっているが、その中でもsilyleneは確実に反応に関わっていることを明らかにしている。Silylは時間依存密度汎関数法の計算により、反応に寄与している可能性がある事は分かっている。一方でsileneについては、その寄与はまだ明らかになっていない。以上のことより、silyl寄与の実験的証明ならびにsileneの寄与の程度を明らかにする事が次なる課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
過渡吸収スペクトル測定は、CPSと炭素化合物の反応追跡に有効である事が明らかになった。今後は当該測定に注力し、CPSと炭素化合物の反応からSi-C結合が形成される反応機構の詳細を明らかにする。より具体的には、CPSダイマーへの光照射により生じるラジカル活性種の同定、および各活性種が示しうる反応経路の記述である。液体SiCの合成に係る反応機構の解析が終わった後には、薄膜の解析にも取り掛かる。特に液体SiCの脱水素化に伴う液体→固体変換過程における構造変化が興味の対象となる。薄膜については拡散反射レーザーフラッシュフォトリシス法や、脱水素を追跡するTG-MS等を中心に解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:外部分析で依頼をした過渡吸収測定は、最初の測定のみを特別に無償のサンプル測定としてもらう事ができたため、外部分析依頼の費用を2年目に持ち越すことになった。 使用計画:次年度以降の分析にかかる人件費に充てる予定である。
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