電子機器の高度化に伴い、Si工学では対応が困難な過酷な環境下でも動作可能な、SiC素子開発への期待が高まっている。その工程において、Si-Cの直接結合には2000℃程度の高温やプラズマのような高エネルギーな手法が必要であった。一方で低エネルギーな手法として、有機ケイ素化学に基づく化学的なSi-C作成のアプローチも研究されてきた。しかし化学的手法は、合成に用いる金属触媒のコンタミと不融化処理(部分酸化による架橋反応)のため高純度化に課題があり、半導体SiC素子への適用は実現されていない。本研究課題である『溶液法を用いたSiC物質の創製』は、この問題解決への有力な足がかりを与えるものである。 我々は当初、化学的な手法を駆使したSi物質の創出を目指し、Si-H系からなる「液体Si」を創出した。液体SiはSi5H10の構造式を持つ分子の集合体であり、光や熱で脱水素化することで良質な半導体Siとなる。次に研究代表者らは液体Siと炭素化合物との間で発生する特異なH転移反応を利用し、両物質を融合させた「液体SiC」を創出した。この物質は合成に金属触媒を用いず、不融化処理も不要であり、Si/C組成を任意に制御できるといった、従来の有機ケイ素物にない特徴を備えている。つまり液体SiCとは、半導体用途に耐え得る高純度化を実現した初めての液状の有機ケイ素物質である。そして、このSiH-CH系物質からHを脱離する事で得た膜が、Siには無い多くの優れた機械特性 (耐摩耗性、耐食性、耐熱性) や半導体特性を示す事を明らかにしてきた。
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