研究課題/領域番号 |
17K06015
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金森 主祥 京都大学, 理学研究科, 助教 (60452265)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エアロゲル / 多孔体 / ゾル-ゲル法 / 機械的物性 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、ゾル-ゲル法における前駆体構造を変化させることで得られるゲルの機械的物性を制御し、強度や柔軟性に優れた透明・低密度多孔体であるエアロゲルを作製することを目的としている。 初年度である平成29年度は、プロピレンおよびブチレン架橋部位をもつアルコキシシラン化合物の合成と、そのゲル形成挙動について初歩的な検討を行った。また、有機鎖をさらに伸長したものとして、ビニル基をもつアルコキシシランをラジカル重合して得られる長鎖炭化水素鎖を有するポリアルコキシシランからエアロゲルの合成を試み、その物性を詳しく調べた。 まず、メチルジメトキシシランとアリルメチルジメトキシシランを前駆体とするヒドロシリル化により、1,3-ビス(メチルジメトキシシリル)プロパンを、また、1,4-ビス(メチルジクロロシリル)ブタンのアルコキシ化により、1,4-ビス(メチルジメトキシシリル)ブタンを、それぞれ高い収率で合成することができた。次に、これらの前駆体を用いたゲル形成について検討したところ、低極性溶媒中における塩基一段階反応により、半透明~不透明の外観を有する湿潤ゲルが得られた。これらの湿潤ゲルについて超臨界二酸化炭素を用いて乾燥を行ったところ、やや高い密度をもつ、半透明~不透明な外観を有するエアロゲルが得られた。得られたエアロゲルの圧縮変形挙動を調べたところ、高い強度は示すものの変形回復性は低いことが明らかとなった。 さらに、ビニルメチルジメトキシシランのラジカル重合により炭化水素鎖を有するポリアルコキシシランを合成し、これを前駆体として用いた塩基一段階反応に基づくゾル-ゲル法により透明エアロゲルを得ることができた。これらのエアロゲルは比較的低密度であり、極端な曲げ変形に対しても柔軟に応答することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成29年度は、当初目標であったゾル-ゲル法の前駆体となる新規アルコキシシランの合成および、それを用いたゲル形成について基礎的な検討を行い、得られるエアロゲルにおける構造および物性の傾向に関する知見を得ることができた。得られたエアロゲルの密度や可視光透過性などの物性は広い範囲で制御できているとは言い難いが、次年度も引き続きゲル形成に関する検討を続けることでより透明で低密度であるエアロゲルが得られると期待される。 また、長鎖炭化水素鎖をもつアルコキシシランから透明エアロゲルの作製が可能であることを見出し、極端な曲げ変形に対する柔軟性を示すことを明らかにした。国内外の学会において成果発表を行い、国際誌における論文発表も行った。また、特許の出願も行った。 このため、概ね順調に進展しているとの自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は特に、合成したアルコキシシランを用いたゾル-ゲル系における諸条件を最適化し、バルク密度や可視光透過性について、より広い範囲で制御することを第一に検討する。同時に、圧縮や曲げなどの変形に対する応答といった機械的物性を調べ、ゲルの作製条件に対する系統的な知見を得る。これらの実験的知見について、より有機架橋部の短いエチレン・エテニレン架橋前駆体から作製したエアロゲルとの比較を行い、前駆体・ネットワークの分子構造とエアロゲルの諸物性との相関についてより詳しく調べる。 平成31年度は主に、高圧の超臨界流体を用いない常圧での乾燥手法についての検討に移行する。平成30年度までに得られた知見にもとづき、代表者らが過去に培った常圧乾燥法の適用の可否や、常圧乾燥プロセスの最適化を検討する。また、超臨界乾燥で得られたエアロゲルと常圧乾燥で得られたキセロゲルの構造および物性を比較し、乾燥プロセスによる構造・物性への影響を詳しく調べる。 全研究機関を通じて、これまでにゾル-ゲル系において検討されたことのないアルコキシシラン前駆体におけるゲル形成能を調べ、低密度・透明多孔体が得られる条件を見出し、過去の研究における他の前駆体から作製したエアロゲルとの比較を行うことで、エアロゲル研究における分子構造の重要性を明らかにするような研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度は、ストックの試薬および器具を用いて小スケールでの実験のみを行ったため支出が少なく、繰越金が生じた。 次年度は実験スケールを拡張し、本研究のための実験環境を整えるため支出額が増大する見込みである。
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