研究課題/領域番号 |
17K06022
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
大澤 善美 愛知工業大学, 工学部, 教授 (80278225)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / 負極 / シリコン / 炭素 / CVD |
研究実績の概要 |
H29年度は、木材(ヒノキ)と濾紙(セルロース繊維)を1000℃で炭素化を行うことで、それぞれ木質多孔質炭素基質、及びセルロース多孔質炭素基質を作製し、パルスCVI 法にて基質炭素上へ熱分解炭素コーティングを行い、用いた基質の種類の違い、及び熱分解炭素コーティングによる影響について、構造解析と電気化学的特性評価を行い考察した。 BET法による比表面積の解析結果から、炭素化を行ったセルロース多孔質炭素基質および木質多孔質炭素基質の比表面積は、それぞれ平均190、及び100m2/gであることが分かった。この値は、活性炭のような高比表面積炭素よりは低いが、現在、負極に用いられている黒鉛の約5m2/gの値に比較すると大きい。本研究では基質のコア炭素の表面近傍にナノポアが存在し表面積を上げることで、シリコンとの密着性を向上させることが目的であるので、黒鉛より高い比表面積が得られたことは大きな成果と考えられる。また、得られた基質にプロパン(30%)-水素ガス系から950℃で熱分解炭素をコーティングしたところ、比表面積は、いずれの基質においても1m2/g以下まで減少することが分かった。 熱分解炭素をコーティングした試料のSEM像とTEM像を解析した結果、熱分解炭素は層状に析出していることを明らかにした。基質の熱分解炭素コーティング前後での初期充放電曲線を解析し、熱分解炭素を析出させることにより不可逆容量が減少することを明らかにした。これは、層状の熱分解炭素を析出させることで活性なエッジ面や表面あるいは末端の官能基と電解液との接触を防ぎ、また、比表面積の減少で、不可逆容量の原因となる電解液の分解等を抑制したためと推察している。また、コーティングした試料の可逆容量は、いずれの基質を用いた場合も450mAh/g以上と、現行負極の黒鉛を超える容量が得られることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目的は、高表面積炭素をコア炭素として用い気相法でシリコン膜、続いて熱分解炭素薄膜をシェルとして表面に修飾した新規な構造を有した炭素を合成し、現行の黒鉛負極より高容量でサイクル特性にも優れた負極を得ることである。H29年度の計画では、【1】コア用材料の検討として、「高容量で高比表面積を有する炭素コアの合成条件の解明」、および【2】シェル材料の検討として、「熱分解炭素ならびにシリコンコーティング条件と表面構造および電気化学的特性との関係の解明」について検討する予定であった。 【1】については、セルロース繊維(濾紙)と木材(ヒノキ)について炭素化を行い、比較的高い比表面積を有し、かつ黒鉛を超える容量(372 mAh/g)以上が得られる条件について検討した。その結果、いずれの原料を用いた場合も、1000℃で、アルゴン雰囲気中、4時間炭素化することで、100-190 m2/g と黒鉛より大きな比表面積を有しながら、容量は372 mAh/g以上を示すことを見出した。黒鉛を超える高容量炭素の合成条件を見出すことができ、さらに、高比表面積であることから、今後、シリコンを複合化した場合、密着性が向上し、優れたサイクル特性を示す可能性が得られ、充分な研究の進展があったと考えられる。 【2】について、熱分解炭素コーティングに関しては、基質の多孔質炭素よりも結晶性が高く、緻密で比表面積が小さな熱分解炭素が析出していることを構造解析より明らかにした。また、このような熱分解炭素を析出させることにより、大きく不可逆容量が減少することを明らかにし、表面構造と電気化学的特性との関係について、重要な解明を行うことができたと思われる。しかし、シリコンコーティングについては、本年度は多孔質基質上に析出が確認できた段階までであった。 以上の点より、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.コア用材料の検討 「高容量で高比表面積を有する炭素コアの合成条件の解明」:本年度は、前年度検討したセルロース繊維と木質材料については、さらに詳細、系統的に炭素化条件を吟味し、更なる高容量化を狙う。得られた知見を元に、容量等に強く影響する構造因子を見出し、各材料系からの高容量・高比表面積炭素の合成条件を明らかにする。なお、得られたコア炭素は、表面積の点で、後述のシリコンコーティング後、サイクル特性の改善には不十分な可能性がある。その場合は、今回提案するナノ炭素/シリコン/熱分解炭素複合体の優位性を明らかにすることを最優先として検討するために、コア炭素として、市販の高表面積炭素となる、小粒径黒鉛、活性炭、アセチレンブラック、ケッチンブラックについても候補として検討する。 2.シェル材料の検討 「コーティング条件と表面構造および電気化学的特性との関係の解明」:熱分解炭素コーティングについては、本年度は、前年度に引き続き、プロパンガス系からのコーティングを検討するとともに、メタン、及びベンゼンガス系からのコーティングを検討する。析出する熱分解炭素のナノ構造は、原料ガス種によって変わる可能性があり、異なった微構造の薄膜をコーティングできると期待され、さらにCVD条件を吟味することで構造を制御し、構造と電気化学的特性との関係を詳細に検討する。一方、シリコンコーティングに関しては、前年度の検討よりパルスCVI法では酸素の混入が起きやすいことが判明した。従って、流通式のCVD法でのコーティングを試みる。本年度は、四塩化ケイ素ガス系を用い、コア炭素の表面にナノメーターサイズで膜状もしくは粒子上のシリコンを析出させる条件を検討する。また、コア炭素の表面ナノポアの存在がサイクル特性に及ぼす効果を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の研究では、シェル材料の検討として、熱分解炭素コーティングに加え、シリコンに関しても、構造と電気化学的特性との関係を詳細に検討する予定であったが、シリコンの析出の確認と元素分析の評価までの検討で終わり、電気化学的特性評価は着手を始めただけであった。そのため、シリコンコーティング材料の電気化学的特性評価用に予定していた電解液などの使用量が、予定よりやや少量となり、次年度使用予定の研究費が発生した。しかし、その額は4万円以下であり、全予算に対する未使用比率は小さい。 次年度の研究費の使用計画は以下を予定している。コア炭素の原料費の購入を行い、その合成のための装置(炭素化炉)の消耗部品を購入する。また、シェル用炭素やシリコンのコーティングのための原料(ガス類)の購入、コーティング用パルスCVIやCVD装置の消耗品、例えば石英製反応炉の製作、修理、真空ポンプオイルなどを購入する。試料の構造解析としては、元素分析(ESCA)による表面C,O組成、X線回折法、ラマン分光法、TEMなどによる結晶性やナノ構造解析、窒素吸着法による表面ポア解析などを予定しており、そのためのガラスセルや冷媒などの必要品を購入する。さらに、電気化学的特性として、容量、クーロン効率、サイクル特性、レート特性を評価する。そのため、ガラス製電池セル、電極用リチウム、電解液などの消耗品を購入する。
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