令和元年度は、多孔質コア炭素基質へのシリコンコーティング、及びシリコンとパイロカーボンのマルチコーティングについて検討した。昨年度までの研究結果から、900℃で炭素化したセルロース繊維多孔質炭素をコア炭素基質として選定し、流通式のCVD法での四塩化ケイ素ガス系から800℃でのシリコンのコーティングを、プロパンガス系から900℃でのパイロカーボンのコーティングを行った。 コーティングを行った試料の充放電曲線、容量維持率を評価した結果からシリコンのみをコーティングさせた試料では初期容量が613 mAh/g (Si 8.92 mass%)、850 mAh/g (Si 16.4 mass%)となり天然黒鉛よりも高い容量が得られることを見出した。また、シリコンのコーティング後、カーボンをマルチコーティングした試料は、初期クーロン効率80 %以上を示し、シリコンのみをコーティングした試料の約70 %よりも改善されることを明らかにした。これはシリコン表面に蒸着したカーボンが導電性を向上させシリコン利用率を向上させたこと、及びSEIの生成を抑制したためであると推察される。また、シリコンのみを16.4 mass%蒸着させた試料の30サイクル後の容量維持率は、約80 %と高い値を示すことを明らかにした。これは炭素繊維に蒸着させたシリコンが繊維間の空隙内で体積変化を起こし、負極全体としての膨張を緩和し電極体の破壊を抑制したためと考察している。さらに、シリコンを16 mass%蒸着後、カーボンを10 mass%蒸着させた試料は、容量維持率90%程度となり、シリコンのみの試料の容量維持率より高いことを見出した。これは炭素繊維上に析出したシリコンと基材の炭素繊維との間の結着が、カーボンコーティングにより強固になり、充放電によるシリコンの剥離を抑制したためと考察した。
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