研究課題/領域番号 |
17K06042
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
上原 拓也 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (50311741)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 結晶粒界 / 分子動力学 / 変形挙動 / 塑性変形 |
研究実績の概要 |
本研究では,ナノスケールとマイクロスケールの力学特性について,結晶粒界のダイナミクスに着目し,マルチスケールな力学の理解と体系の構築を行うことを目的としている.そのため,分子動力学法によって多結晶体の変形挙動を解析し,その特性をフェーズフィールドモデルに組み込むことによってマイクロスケールの力学挙動を表現することを目指している.今年度は,前年度にモデル化を試みた4結晶粒モデルについて,より多様な条件での解析を行った.このモデルは4つの結晶粒から構成され,傾角粒界と4重点をもつモデルであり,ここに引張りまたは圧縮の負荷を加えたときの挙動を解析した.これによって,塑性変形の基点が結晶粒界にみられ,線状の欠陥や面状の欠陥が導入され,粒内に進展していく様子を再現することができた.また,モデル全体の応力ひずみ線図からは,この塑性変形の開始時に大きな応力緩和が生じるが,この応力緩和は急激ではあるものの瞬間的ではなく,ある程度の時間経過を経ており,この際に欠陥が進展していることを示した.また,このような粒界挙動の理解を容易にするビジュアリゼーションについても工夫し,欠陥あるいは塑性変形の進展が明示することに成功した.さらに,結晶粒の組み合わせによって降伏挙動が異なることを示し,ナノスケール解析での特徴に関するデータを収集した.また,粒子モデルを用いた構造体の安定性解析を行い,圧縮負荷で構造が崩れ,局所的な構造が変化するような解析を行った.この局所的な構造を多面体として捉えて考察する一方,フェーズフィールドモデルによる多面体解析を行った.これらのモデル解析と分子動力学解析の結果を融合し,ナノ-マイクロをつなぐ解析モデルの構築にすすむ準備を整えた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度当初の計画では,様々な粒界モデルを用いた解析を行い,粒界を起点とする塑性変形の発生,発展機構を明らかにし,粒界構造との関係を明確にするとともに,これらの知見をもとに,粒界挙動をマイクロスケールで表現するダイナミクスモデルの構築を進めることととしていた.ナノスケール解析については,概ね順調に進められたが,マイクロスケールについては,塑性変形のキーパラメータをナノスケール解析結果から抽出し,モデル化をすすることとしていたが,この点については完全には絞りきれなかった.ただし,全体的にみれば想定の範囲内であり,次年度前半においてマイクロスケールのモデル化に重点を置くことによって当初目的の研究成果を得ることは可能であると見込まれる.このことから,現在までの進捗状況としては,概ね順調に進展していると判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの分子動力学シミュレーションによるナノスケール解析の結果をまとめ,粒界を起点とする塑性変形の発生,および進展機構を明らかにする.前年度までに得られている結果の分析を進め,一般的に知られている転位やすべり機構との関連および新規な機構の提案を図る.また,これらの変形機構と粒界構造の関係を明確にし,マイクロスケール挙動のキーとなるパラメータを特定する.このような粒界挙動をマイクロスケールで表現するダイナミクスモデルの構築については,従来のマルチフェーズフィールドモデルをベースとし,上述のナノスケール解析によって抽出されたキーパラメータを含む形式でモデル化することによって基礎式を構築する.さらに,この式に基づくシミュレーションを行い,その妥当性を明らかにする.これらによって多結晶体の力学特性の評価が可能となることから,例えば巨大ひずみ加工による結晶粒微細化と材料特性変化などに関する実験データと比較し,定性的な評価の精度について検証する.これらの研究によって,粒界のマイクロスケールダイナミクスに関する理論体系を完成させる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究期間の前半に新規ワークステーションを購入し,大規模計算を行う予定であったが,基礎的なモデルの検討,理論検証,および解析ツールの開発などにやや時間を要したため,これらを完成した後,大規模計算を行う方が効率的であると考え,新規ワークステーションの購入を研究期間の後半に変更し,次年度に購入する.
|