研究課題/領域番号 |
17K06044
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
小川 雅 工学院大学, 工学部, 助教 (90635236)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 逆問題 / 残留応力 / X線回折 / 非破壊評価 / 有限要素法 / 摩擦攪拌接合 / 疲労 |
研究実績の概要 |
平成29年度には,航空機用アルミニウム合金A7075の摩擦攪拌接合(FSW)平板を対象として,本手法により残留応力分布を推定し,その推定精度の評価を行った. 具体的には,まず応力除去焼きなましを施したアルミニウム合金A7075を摩擦攪拌接合し,放電加工切断により,なるべく余分な加工ひずみが入らないように注意して対象とする試験片を抽出した.次に,部材表面の残留応力分布をcosα法に基づく可搬型X線回折装置により計測し,本手法により部材全域の残留応力分布を推定した.そして,他の残留応力評価手法との比較により,本手法の残留応力推定精度の評価を行った. 本手法では,予め有限要素解析により取得した部材表面の弾性ひずみと部材全域の固有ひずみ分布との関係を用いて,部材全域の固有ひずみ分布を逆問題解析により求める.本研究の逆解析においては,未知推定量の数を適切に低減させるため,固有ひずみ分布をロジスティックス関数による近似を行った.さらに,板厚方向,および溶接線方向に固有ひずみが一定であるという簡単な仮定のもとで固有ひずみの未知推定量の数を比較的大きく削減した.その結果,概ね精度よく推定することができた. しかしながら,部材の表面と裏面とで残留応力の分布傾向が異なることから,固有ひずみは板厚方向に分布していると考えられるため,固有ひずみの板厚方向分布の考慮も行ったが,あまり推定精度を改善することができなかった.今後,推定精度をさらに高め,実際の固有ひずみの分布をより精度よく再現するためには,固有ひずみの関数近似法を工夫する必要があることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
航空機用アルミニウム合金の摩擦攪拌接合には,大型の装置を要するだけでなく,適切な接合条件を決定する必要がある.本研究では摩擦攪拌接合の実績を有する都立産業技術研究センターに依頼することにより,比較的早期に接合材料を入手することに成功した. 部材表面の残留応力計測については,cosα法に基づく可搬型X線回折装置を利用することにより,多くの点を効率よく計測することができた.また,計測結果に基づいて部材全域の3次元残留応力分布を推定した.さらに,計測結果と固有ひずみ理論に基づいて,部材全域の3次元残留応力分布を推定した. 本手法による残留応力分布の推定精度を評価するために,計測部位とは異なる箇所の残留応力分布をX線回折により計測し,推定した残留応力分布との比較を行った.中性子回折装置を利用することができず,非破壊に内部の残留応力分布を計測することができなかったが,ある程度精度よく推定できていることを確認することができた.
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今後の研究の推進方策 |
本手法により,ある程度精度よく残留応力分布を推定することができたと考えられるが,摩擦攪拌接合において,施工方法の違いによる残留応力の値の変化を見る上では,さらに精度よく残留応力分布を推定できていることが望ましい.そこで,推定する固有ひずみ分布の関数近似方法を変化させることにより推定精度の改善を図る.特に,摩擦攪拌接合は一般的な溶接接合よりも固有ひずみの分布する範囲が狭いと考えられるため,摩擦攪拌接合に適した関数近似方法を工夫する. また,平成29年度には推定精度を評価するために,計測部位以外の表面について推定値と実測値との比較を行ったが,平成30年度にはさらに詳細に推定精度を評価するために,部材を切断することによって残留応力分布を再配分し,その状態においても,残留応力の推定値と実測値とが合うかどうかを検証する. そして,比較的高い推定精度が得られた後,摩擦攪拌時のツールの回転速度や接合速度など,接合条件を変化させて,同じ計測方法と推定方法を適用し,どの程度残留応力分布が変化するかについて調査を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において,科研費とは別に,学内の競争的獲得資金を得ることができたため,試験片の調達や計測,解析等に伴う費用をまかなうことができた.また,中性子回折法による計測を行わなかったため,J-PARC(大強度陽子加速器施設)への旅費が発生しなかった.本手法の推定精度をより詳細に検証するために,試験片を切断し,ひずみゲージにより切断時の解放ひずみを計測する計画であったが,X線回折装置をお借りできる期間が限られていたため,X線回折装置による計測を重視し,ひずみゲージを用いた計測を行わなかった. 次年度には,本手法の要であるX線回折装置をより使うことができるようにするために,可搬型X線回折装置の電源装置を購入する予定である.また,国際会議において,本年度に得られた成果を発表する.さらに,摩擦攪拌接合条件の異なる試験片を入手し,接合条件と残留応力分布との関係について考察する予定である.
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