これまでは,航空機用アルミニウム合金の摩擦攪拌接合平板に対して,本手法を適用し,その推定精度の評価と推定精度の向上を図ってきた.しかし,対象とする部材の母材部におけるX線残留応力計測精度が比較的低いため,推定方法の違いに対する,推定精度の良否を判断することが難しいという問題があった. そこで,令和1年度には,本手法の推定精度を向上させる推定方法についてさらに検証するために,比較的大きな残留応力場に対して,本手法を適用し,その推定精度の向上を図った. 具体的には,フェライト系ステンレス鋼SUS430の20mm厚の厚板平板を用意し,大電流を伴うサブマージアーク溶接によってビードオン溶接することにより,比較的大きな拘束条件により残留応力を発生させた.溶接開始部と終端部を放電加工により切除した試験片を対象として,表面残留応力を計測したところ,比較的高い推定精度を得ることができた.そして,本手法を適用し,手法の推定精度を改善する方法について検討を行った.未知数を削減するために推定の際に用いる近似関数を最適化を行ったところ,特に溶接線近傍において,推定精度を向上させることに成功した.また,溶接部から離れた箇所でも,残留応力の値が比較的大きい場合には,計測することにより,更なる推定精度の向上が見込めると考えられる. 本研究では,製品の余寿命予測を可能とするために,提案する3次元残留応力の完全非破壊手法について実証実験を行い,その有効性の向上に取り組んだ.まず,摩擦攪拌接合材料を対象として,本手法の有効性を示すことができたが,更なる推定精度の向上のためには,より詳細に残留応力分布を精度よく評価することが求められるため,厚板の鉄鋼材料を対象として手法を適用し,推定精度を向上させる方法を明らかにすることができた.
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