本研究の目的は,「すべり起因へき開破壊の場合には破壊時の応力が温度によらない」との知見を活用し,延性―脆性遷移温度域材の破壊靱性値Jcの温度依存性を予測する手法を構築し,その妥当性を検証することである.以下の成果を得た. 1) T-scaling法(三次元弾塑性有限要素解析(EP-FEA)の結果得られるき裂先端開口応力成分σ22分布を温度,荷重によらず1本の曲線として無次元化する手法)を構築し,2)基準温度Tr下の破壊靱性値Jcrの中央値,およびTr,予測対象温度Ti下の応力-ひずみ関係を取得し, Ti下の破壊靱性値Jciの中央値を予測するCDS法(Jci = Jcr (σYSr/σYSi)^(n+1));σYSi,σYSr は各温度の降伏応力,nは応力―ひずみ関係をRamberg-Osgood近似したときの指数)へと展開し,3) 実験によりCDS法の妥当性をS55C鋼(-85~20℃),SCM440鋼(-55 ~100℃)に対し検証した. 4) このSCM440鋼は,競合するASTM E1921のマスターカーブ(MC)法によりJcの温度依存性が予測できないこと,CDS法の優位性を確認,MC法の課題について考察した. 5) CDS法では,中央値とは言え,ばらつきが大きいJcと小さいσYSの一対一関係を示唆している.その妥当性については,原子力圧力容器鋼を含むフェライト鋼34ケース(材料,熱処理条件,試験片タイプの組み合わせ)で得られた640のJcデータを機械学習することにより示した. 6) 5)の34ケースに対しCDS法のASTM E1921 MCに対する優位性を,決定係数を用いて定量的に示した.
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