研究課題/領域番号 |
17K06056
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
濱崎 洋 広島大学, 工学研究科, 助教 (30437579)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 温間変形 / アルミニウム合金 / オーステナイト系ステンレス鋼 / マルテンサイト変態 / 粘塑性 / 異方性 / 構成モデル |
研究実績の概要 |
アルミニウム合金板(A5182-O)の室温から温間での引張試験により温度,ひずみ速度依存性,応力緩和特性を調査した.また,温間で実験可能な二軸引張試験装置を作成し,二軸引張試験を実施した.その結果,アルミニウム合金板は温間で顕著な温度,速度依存性を示すが,等塑性仕事面形状は温度にほとんど依存しないことを確認した.また,本材料は室温付近では動的ひずみ時効が生じ,室温と100℃の応力‐ひずみ曲線がほとんど一致しているにもかかわらず,室温ではほとんど生じなかった応力緩和が100℃では顕著にみられた.これにより,本材料の応力緩和は変位保持中に生じる粒内の転位運動が主たる要因でなく,粒界ひずみが原因であることが間接的に示された. さらに,温間二軸張出試験装置を用い,温間成形限界線図を取得した.その結果,温度が上昇するにつれ成形限界が著しく向上することを確認した.また,ひずみ速度の依存性は,本試験条件に限ってはほとんど影響しないことが確認された. また,オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の引張バルジ試験装置を開発した.本試験では管状の試験片を使用し,2台のカメラで変形中のひずみおよび曲率を測定することができる.本装置により室温の二軸バルジ試験を実施し,また,同時にフェライトスコープによりマルテンサイト量を測定した.その結果,マルテンサイト量と相当塑性ひずみの関係は変形形態(応力比)により変化し,これまで提唱されているひずみ誘起のマルテンサイト変態モデルでは説明できないことを見出した.さらに相当応力でマルテンサイト量を整理できることを確認し,加工誘起変態が応力誘起であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では平成29年度までに,温間引張試験,温間応力緩和試験,温間二軸引張試験,温間張出試験,SUS304の引張バルジ試験,変形後試験片のEBSD観察を予定していたが,現段階で温間引張バルジ試験とEBSD観察以外はほぼ計画通り進めることができた.ただし,当初は2000系および6000系のアルミニウム合金板を使用する予定であったが,実験方法が確立するまでは材料の経年変化が小さな5182-O材で研究を進めるよう計画を変更している. 遅れの生じた温間引張バルジ試験では温度制御で目標の制御を達成できていないが,オイルバスを作成中であり,これにより問題が解決されると考えている. また,試験後試験片のEBSD観察であるが,予想より多くの試験条件で試験を実施したたため,まずは光学顕微鏡により組織変化の大きな変形,温度条件を検討した.その結果,温間張出試験で粒成長,再結晶,回復の度合いに温度や変形形態(ひずみ比)の影響が大きく表れていることを確認済みであり,今後はこれらの試験片を中心にEBSD観察を実施予定である.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験によりアルミニウム合金板およびオーステナイト系ステンレス鋼の室温から温間における変形特性がおおむね明らかとなっており,平成30年度は材料モデルの構築を中心に研究を実施するが,同時に年度の当初は不足している実験データの充足(温間二軸バルジ試験,EBSD観察)を中心に進める.また,アルミニウム合金については5182材では動的ひずみ時効が生じるため,純アルミニウム(A1050)の板材で同様の試験を実施して,純粋なアルミニウムの特性と,合金ならではの特性の切り分けを行う. 温間変形およびマルテンサイト変態のモデルについてこれまでの文献調査は済んでおり,まずは実験で得られたデータに既存モデルを当てはめてその特徴を把握する.その上で既存モデルに不足している現象あるいはモデル上の欠点を把握して,より高精度なモデル化を行う.その際にはEBSDでみられる材料組織の変化(物理現象)を念頭に置いたモデル化を行うことで複雑な変形履歴に対応できるよう考慮する. さらに上記モデルが確立した後に成形限界クライテリオンを構築する.このモデル化には高精度な応力‐ひずみ構成モデルが不可欠であるため,年度の後半に計画している.モデルは室温の成形限界の解釈として用いられるM-Kモデルをベースとし,そこに高精度な温間構成モデルを適用する.さらにそのようにして得られる成形限界と実験結果を比較することで精度検証を行う.
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