自動車等輸送機の燃費向上,CO2削減,あるいは電気自動車のバッテリー駆動時間の増加のため車体の軽量化が急務となっている.アルミニウム合金はこれまで自動車に使用されていた鉄鋼材料に比して軽量かつ高比強度であり,現在ではドアやボンネット,フェンダー等外装部品に使用されており,さらなる軽量化のためにはその適用範囲を拡大させる必要がある.しかし,アルミニウム合金は難成形材であり,板材の冷間(室温)プレス成形では離型時に過大なスプリングバックが伴うことや成形中に割れが生じやすいといった問題があり限界がある.現状,これらの問題を克服する技術として300℃程度まで素材を加熱して成形する温間プレス成形が有効であることは知られている.しかし一方で,多軸変形下における素材の応力‐ひずみ曲線の温度とひずみ速度依存性はその実験調査がほとんど行われていないため,プレス現場での金型設計は実機を用いた試行錯誤を複数回繰り返す必要があり,金型設計に数値シミュレーションを活用できる冷間成形と比べてコストとリードタイムが大幅に増大する.そのため,プレス成形シミュレーションを冷間プレスのレベルで活用するには,まず材料の応力‐ひずみ特性を詳細に調査して,そこから得られる特性を高精度に記述できる温度・ひずみ速度依存の材料モデルを構築する必要がある.その第一歩として,本研究では室温から300℃までのアルミニウム合金板の温間二軸引張試験を実施し,プレス成形を想定した変形における応力‐ひずみ曲線を取得することで,板材の面内異方性を調査した.
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