研究課題/領域番号 |
17K06063
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
上田 政人 日本大学, 理工学部, 准教授 (80434116)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 炭素繊維強化プラスチック / 熱可塑性 / ハイサイクル成形 |
研究実績の概要 |
炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)は,加熱により軟化し,再度冷却すると硬化する性質があることから,生産性に優れたリサイクル可能な材料である.成形性を高めるために長さが~数十mmの長繊維を用いるが,この場合のCFRTP成形品の力学特性は,炭素繊維の分布や配向に強く依存する.このCFRTPを用いて複雑形状部品を成形する場合には,特にリブなどの曲がり部で,形状や成形条件に依存した樹脂流動により繊維分布や配向が変化して,局所的に材料特性が変化する.そこで,CFRTPの微視的な不均質性を考慮に入れた応力集中部の強度予測手法を確立して,今後応用分野が広がると予想される複雑形状CFRTP部品の構造信頼性に資することを目的としている. 平成29年度ではまず,ナイロン樹脂を母材とする一方向CFRTPプリプレグシートを切断したチョップドCFRTPテープを準備した.このチョップドCFRTPテープを用いて加熱プレス装置により,JIS K7164に準拠した短冊試験片を成形して,引張試験を実施することで引張特性を取得した.その後,チョップドCFRTPテープを用いて複雑形状部品の応力集中部を模擬したT型試験片も加熱プレス装置により成形した.このT型試験片のリブ曲げ試験を実施して,剛性及び強度を測定した. 以上の結果をもとに,有限要素解析を用いてT型試験片をモデル化し,引張試験から得られた材料特性を割り当ててリブ曲げ試験の数値シミュレーションを実施した.その結果,解析により得られたT型試験片の剛性及び強度と,実験により得られたT型試験片の剛性及び強度とが大きく異なることが明らかになった.このことは引張試験片から得られた材料特性に対して,T型試験片ではCFRTPの微視構造の変化により見かけの材料特性が変化したことを示しており,形状の異なる基準試験片を用いて測定した材料特性をもとに,複雑形状部品の力学特性を直接的に求めることができないことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の当初の研究計画としては,複雑形状CFRTP部品の応力集中部を模擬するT型試験片を提案して,成形条件に依存した微視的な不均質構造に起因する強度低下率の範囲を実験的に明らかにすることであった.これに対して,本年度に実施した内容は下記の通りである.(1) 複雑形状CFRTP部品の応力集中部を模擬するためのT型試験片の提案.(2) チョップドCFRTPテープからT型試験片を製作して,そのリブ曲げ試験を実施.(3) チョップドCFRTPテープから規格に準拠した短冊形状試験片を製作し,引張試験を実施して材料特性を取得.(4) 引張試験から得られた材料特性を用い,有限要素解析により算出したT型試験片の剛性と強度とを実験結果と比較することにより,形状や成形条件に依存した材料特性の変化について検討.以上より,研究は概ね順調に進んでいる状況である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究結果から,短冊形状の引張試験片から得られる材料特性に対して,T型試験片の材料特性は成形によるCFRTPの微視構造の変化のために大きく変化することが明らかとなった.そこで,今後はこのT型試験片の内部における繊維配向状況について詳しく調査することにする.具体的には,T型試験片の応力集中部近傍の断層画像をX線CT装置により撮影して,応力集中部近傍の繊維配列状況と強度低下率との関連性を明らかにする.ここでは成形条件と繊維配列状況との関係を明らかにするため,比較的広範囲における配列状況の観察を行うことにする.また,この結果から,複雑形状CFRTP部品の高強度化手法について検討を実施する.
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