本研究では,分子軌道計算および分子動力学シミュレーションによる反応環境・分子構造設計と試行錯誤的実験を組み合わせて,光解離性保護基を分子鎖内に多数導入した長鎖化ポリ乳酸の最適分子構造を導き出すことで,保護基導入による分子鎖の折れ曲がりに起因する力学特性(弾性率)の低下を可能な限り抑えつつ,「使用時の分解・劣化の抑制」と「廃棄時の分解促進」からなる加水分解制御機能を極限まで高性能化し,グリーンコンポジット用の究極のマトリックス樹脂を創製する原理を構築することを目的とした.これにより,地球環境に優しいグリーンコンポジットの実用化に寄与し,自動車一次のみならずインフラ構造物の複合材料化による社会のサステナビリティの増大に貢献することを目指している.最終年度の成果は,以下のように要約される. 1)分子軌道法によってポリ乳酸が脱水縮合反応する際に必要な活性化エネルギの値を求め,その逆反応としてポリ乳酸の加水分解に必要な活性化エネルギを求めた.その結果,ポリ乳酸の繰返し数が増加するにともなって,加水分解に必要な活性化エネルギが増加した.また,加水分解後のポテンシャルエネルギは加水分解前のポテンシャルエネルギとほぼ同じまたはそれより低い値となり,比較的安定な反応であることが示された. 2)アモルファス状態のポリ乳酸の1軸引張シミュレーションを分子動力学法によりおこなった.その結果,ポリ乳酸の繰返し数が増加するにともなって,引張弾性率が増加した. 3)以上の結果を組み合わせることにより,加水分解時間と引張弾性率の関係をモデル的に示した.この結果は,従来得られている実験結果(加水分解時間の増加にともなって引張弾性率の低下速度が遅くなる)を良く表しており,生分解性樹脂の加水分解挙動を予測する分子シミュレーション系を構築することができた.
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