研究課題/領域番号 |
17K06066
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
來海 博央 名城大学, 理工学部, 教授 (30324453)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ラマン分光法 / 面分光 / イメージング / 樹脂 / 応力測定 |
研究実績の概要 |
平成30年度は,高速広域ラマン分光応力イメージング装置の要素開発と樹脂の応力測定の可能性の評価を行った. 第一に,昨年からの継続項目であったバンドルファイバーの製作を行った.バンドルファイバーの入射側の光ファイバーは2次元配列で10×10の100点とし,検出側は二分岐させて一つの出射側に1次元配列で50点とした.製作したバンドルファイバーでSiのラマン散乱光を評価した結果,一分岐側ではレイリー光ならびにラマン散乱光の両方が検出され,他方では他点の散乱光がクロストークして検出されるなど改善が必要となった.原因としては,検出側の光ファイバーの端面精度が不十分であったことが分かり,現在改良中である. 第二に,樹脂のラマン散乱光ならびに偏光測定,ひずみ測定を行った.対象は一般的な工業用樹脂であるポリカーボネート(PC)とし,ラマンスペクトルを測定した.樹脂は熱に弱いため,樹脂に適した測定条件を検討した.その条件で測定した結果,PCのラマン散乱光を600から3200 cm-1の広範囲で,複数検出することができ,ベンゼン環に由来するピーク等,PCの構造との対応関係を検討した.次に入射光を0~180°の間で偏光制御することでPCのラマン散乱光の偏光測定を行った.一部のラマン散乱光で偏光依存性はなかったが,多くのラマンピークにおいて散乱光の強度に周期性が得られ,分子の配向方向と関連することが分かった. 最後に,4点曲げにより負荷ひずみを段階的に付与し,各ひずみに対するラマンシフト変化量を測定した.ラマンシフト変化量と負荷ひずみの関係は,グレーティングの波数分解能がやや低かったためばらつきが大きくなったものの,多くのピークで負荷ひずみに対して負の傾きをもつ線形傾向が得られ,ラマンシフト変化量から樹脂の応力を推定できる可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度では,①100点のバンドルファイバーの製作ならびに②樹脂のひずみ測定を行った.予定では,③として表面プラズモンレンズの製作を行う予定であったが,製作準備と評価実験の準備のみとなった.また①の100点のバンドルファイバーについては完成したが,評価した結果,検出性能が不十分であり,改善が必要となった.そのため平成30年度後半より改良を行っており,現在の完成度は50%程度となっている. 以上により,平成30年度目標としてきた内容が十分に達成できていないため,やや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,まず100点バンドルファイバーの製作ならびに評価を7月までに完了させることで,バンドルファイバーを組み込んだ面分光技術(次元変換検出光学系)を有する高速広域ラマン分光応力イメージング装置を構築する.入射・検出側ともに光ファイバーの端面を表面研磨し,光ファイバー本来のNAで光を入射と出射できる様に製作する. 同時に,表面プラズモン共鳴レンズの創製を実施する.現在,共鳴レンズは,移流集積法を用いて金ナノ粒子の自己組織化を利用して曲率の大きい平凸レンズあるいはガラス板上に一層のナノ粒子配列層を形成させて製作する予定である.可能な限り一層で粒子の自己組織化を目指すためUV-LIGAプロセスによる製作方法も検討し,両者で性能の良い方を使用する. 第二に,樹脂の応力測定の精度を向上させるため,グレーティングの波数分解能を3倍程度に上げて,ひずみに対するラマンスペクトル変化量の高精度解析を行う.樹脂のどのラマンシフトがひずみに対して最も感度が高くなるかを実験的に明らかにできつつあるので,ピーク選択による高精度のひずみ測定の可能性を検討する. 最後に,表面プラズモン共鳴レンズと組合せ,試験片の樹脂のある一定領域のひずみ分布の測定が可能かどうかを検討する.バンドルファイバーが完成している場合,ある一定領域の同時分光が可能となるので,100点の同時分光を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度では僅かな次年度使用が発生した.発生した理由は,完成した10×10 の100点のバンドルファイバーの検出性能が不十分で,改善が必要となったためである.現在,その改良を進めていることから,本来行う予定であった表面プラズモンレンズの製作が遅れた.これにより,金ナノ粒子を積層させるガラス板や金ナノ粒子の購入が遅れ,次年度での使用額が発生した.今年度はこれらの購入に充てる予定である.
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