研究課題/領域番号 |
17K06089
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
神崎 昌郎 東海大学, 工学部, 教授 (20366024)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 切削加工 / ニアドライ加工 / コーテッド工具 / スパッタリング / TiB2 / MoS2 / 摩擦特性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,切削時のせん断力を利用した反応により層状低摩擦成分を生成・付加できる工具用超低摩擦薄膜を創成し,それを用いて難削材に適用可能なニアドライ加工技術を開発することである.まずTiB2系薄膜表面での低融点B2O3の溶融とMoS2添加の重畳効果により,200℃以上の高温下での摩擦係数0.01以下を目指す. 平成29年度はTiB2‐MoS2複合膜の超低摩擦特性発現の温度範囲の把握およびその拡大を念頭に,先ずはTiB2‐MoS2複合膜を大気中・高温(300,400,500,600℃)で熱処理し,組成や構造,摩擦特性に及ぼす影響を評価した.また,実際に200℃以上の高温での摩擦特性の評価を行い,摩耗痕の観察を中心に高温での超低摩擦特性発現のメカニズムの解明に着手した. 400℃までの加熱であればTiB2‐MoS2複合膜の創成の変化はなく,加熱後の複合膜の摩擦特性を200℃で評価したところ,加熱前と同様摩擦係数0.01という超低摩擦を示した.一方,500℃以上で加熱した場合はBおよびSが脱離消失し,表面平滑性が失われた.その結果,加熱後の摩擦試験温度に関わらず,低摩擦特性が発現することは無かった.実際に高温で摩擦試験をした場合もほぼ同様の結果が得られており,現行のTiB2‐MoS2複合膜における超低摩擦特性発現の上限温度は400℃程度と考えられる. この結果を踏まえ,TiB2‐MoS2複合膜中のBの含有量を過剰とし高温でのBの消失抑制を目指したところ,500℃で加熱した場合でも加熱後の200℃における摩擦係数は0.01という極めて小さい値を示した.加熱後の組成分析はまだであるが,Bの存在が高温下での超低摩擦特性発現に極めて重要と考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように,現行のTiB2‐MoS2複合膜における超低摩擦特性発現の上限温度(400℃程度)を把握することができた.また,Bを過剰に含有させることにより,超低摩擦特性発現の上限温度を上昇させることができた.B含有量の最適化までには至っていないが,Bの存在が高温下での超低摩擦特性発現に極めて重要であることを見出した.これらのことを考え合わせると,本研究はおおむね順調に進展していると判断できる. ただし,Bの存在が複合膜の超低摩擦化に重要であることが明らかになったものの,摩擦面において低融点ガラス質固体のB2O3が生成し,それが溶融することが超低摩擦に繋がっているかは明らかにできていない.今後の研究において,複合膜における超低摩擦特性の発現とB2O3の生成・溶融との関係を明確にする必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究を継続し,高温でのBの消失の抑制と超低摩擦特性発現に最適なB含有量を明確にする.また,MoS2の添加量や結晶性と複合膜の摩擦特性との関係を明らかにする.組成を最適化したTiB2+α‐MoS2複合膜の摩擦特性を高温・窒素雰囲気下で評価し,切削加工時と同様のせん断応力下で二次元層状物質であるh-BNの生成反応を促進させ,温度上昇に伴うh-BN生成量の増加と低摩擦特性発現の関係を明らかにする.2)摩擦環境を窒素雰囲気に変更することにより,低摩擦成分の一つであるB2O3の生成量が減少し,その溶融に伴う低摩擦化の効果が低減することが懸念されるため,窒素量を制御した雰囲気下で複合膜の摩擦特性を評価し,最も低摩擦が得られる雰囲気を明らかにする. 切削加工実験においては,切削油をミスト状に供給するミストホールバイトの開発に着手する.その際には,環境調和性を考慮し,最小限の切削油量で切削性改善の効果を得ることを目的に,切削点に均一性の高い切削油ミストとキャリアガスを集中できるようにする.高速度カメラでの切削油ミストの観察と流線ベクトル解析をもとに行い,平成30年度は噴射角度や噴射幅の測定を含めた測定解析手法の確立に努める.噴霧状態の測定解析結果をもとに,研究協力者(フジBC技研)と共同で切削点に切削油ミストとキャリアガスを集中させるミストホールバイトを開発し,このミストホールバイトを用いて,最適化した組成のTiB2+α‐MoS2複合膜が低摩擦特性を発現する温度範囲・窒素雰囲気で難削材の加工を実現し,ニアドライ加工技術として確立する.
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次年度使用額が生じた理由 |
30,000円が次年度使用額となったが,100,000円単位での前倒し支払い請求であったため,研究遂行に必要な装置を購入した残額が次年度使用額となった. この次年度使用額を含めて切削加工実験に必要な工具・被削材等の購入を行う予定である.
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