研究課題/領域番号 |
17K06103
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研究機関 | 佐世保工業高等専門学校 |
研究代表者 |
森田 英俊 佐世保工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (40332100)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱応力加工 / 脆性材料 / レーザ加工 / スクライブ加工 / 破壊力学 |
研究実績の概要 |
本研究では,半導体プロセス効率化のネックとなっていたウェハ切断技術の革新に挑む. ガラスにレーザをある条件で走査させると,ガラス母材側に鏡面の溝が発生する現象を発見し,そのメカニズム解明を行ってきた(H26 年度 基盤研究C 採択課題).その結果,溝の鏡面部分は,レーザ誘起熱応力によって水平き裂が誘導されることで生成されることを,応力拡大係数解析から示した.その証明を行う過程で,溝となる水平き裂をガラス底面側からセナルモン法によって観察したところ,水平き裂と直交する鉛直なき裂が熱源付近まで先行して発生する条件を発見した.このき裂は,ガラス内部のみで成長し,レーザ走査終了後は割断した.そのため,本現象もき裂の誘導を利用した割断加工であり,切りしろが無く加工面が鏡面で,水冷無しの高速加工を実現する革新的技術になりうると考えた.本研究では,この鉛直き裂をステルスき裂と呼び,これを優先的に成長させるためのレーザ照射条件とメカニズムを明らかにし,脆性材料の新しい高速非接触ドライ内部割断加工を創出する. 本年度は,本加工専用の実験装置を製作し,ガウスとフラットトップレーザプロファイルで,レーザ出力,加熱点半径,走査速度,ガラスの加工長さを変えて実験を行い,さらなる加工成立条件を探索する.また,本現象はこれまでの研究知見から急加熱時に発生しる引張熱応力によるものと考えており,そのため,これまで不明であった線膨張係数の加熱速度依存性についても測定を行い,その変化傾向についても検証を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガウスとフラットトップモードのレーザプロファイルにおいて,レーザ出力,加熱半径,走査速度(10mm/s~1000mm/s)ステルスき裂による割断実験を行った.ガラス(加工)長さが32mm以下では,加熱点前方の引張応力により割断できたが,それ以上の長さになると,ほとんどの場合においてき裂が反れて停止した.通常の熱源後方に冷却時の引張応力では,応力拡大係数から求めたき裂開口領域が広く,開口できない領域の前方も引張応力場が存在している.それに対し,熱源前方の引張応力場は,最大値は非常に大きいものの,その開口領域は狭く,前方は急激に圧縮応力場へと変化するため,わずかにでもき裂先端が開口領域の前方まで侵入してしまうとき裂が反れ,静止しやすくなったと考察した.しかし,前方の引張応力場により,わずかずつではあるが成長させることができることを確認できたため,走査方向に加熱点が一定距離だけ離れて2~3点存在させて走査させれば,一度静止したき裂を次に来る熱源で順次成長させることができると考えた.今回は,ガラスを走査させる単軸ロボットを所望の回数分往復させる設定にすることで,前述の条件における実験を行った.その結果,76mmの加工長さで成功させることができた.このとき,加工面を確認すると,中心部以外は鏡面となっていた.しかし,中心部は,走査後の熱収縮により底面側から生じた引張応力場により割断されていたため,真直度の悪い面となっていた.そのため,さらなる加工条件の検証が必要である. また,ガラスの線膨張係数を加熱速度毎に測定するための実験装置を製作し,測定を行った.メーカーの仕様表にある加熱速度よりも高速となる条件で実験を行ったところ,2倍近く大きい線膨張係数の値を得た.しかし,まだ,実験装置に不備があり,値にもばらつきがあるため,さらに改良が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
現在,溝と同時発生ではあるが,多点の加熱部を設定することで76mmのガラスの割断に成功した.しかし,加工中心部においてはき裂が一度静止し,き裂成長と別のメカニズムで割断されるため,これが静止しないレーサプロファイルの検証を今年度は行う.具体的には,FEMによりレーザ照射点形状,プロファイル,サイズを変えて解析を行い,き裂前方の引張熱応力場が広くなる条件を探索する.特に,エネルギー密度が一様で,メカニズム検討を容易にするために矩形熱源(フラットトップ)で実験と解析を行い,熱源幅と長さによる応力とき裂開口領域の変化について検証を行う.また,線膨張係数の加熱速度依存性のための実験において,精度の問題があるため,これを真空チャンバー内で測定できるよう改良する.さらに,高速加熱領域における線膨張係数を測定するために,薄板ガラスに微細な格子状の表面き裂を入れてレーザ加熱する実験を行い,その膨張過程を高速動画撮影し,膨張率の概算値を得る実験装置を製作し,実験を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
1万円以下の差額であったため,次年度にガラス試験片等の消耗品等と合算して利用することが研究効率を高めると判断したため.
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