研究課題/領域番号 |
17K06110
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾澤 伸樹 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (60437366)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 化学機械研磨 / 分子動力学法 / 反応力場 |
研究実績の概要 |
パワー半導体素子材料の成長基板に用いられるAlN及びSiC基板は、その平坦度がデバイスの性能に影響するため、化学機械研磨(CMP)による平坦化が行われている。しかし、これらの基板は高硬度と高い化学安定性を有する難加工材料であり、高効率な研磨手法の開発が強く求められている。本研究では、難加工材料のCMPに有効な研磨液中の化学反応活性種及び研磨砥粒の組成・構造を検討可能とする、分子動力学法に基づいた難加工材料の高効率なCMPシミュレータの開発を目的とする。実験的に研磨スラリーにナノバブルを導入することで、研磨速度及び平坦度が向上することが報告されている。また、ナノバブルに衝撃波を与えると圧壊し、ジェット流及びOHラジカルが生じた後に、基板を酸化させることがわかっている。本年度は、研磨液中の化学反応活性種としてナノバブルに着目し、ReaxFFの反応力場を用いた分子動力学シミュレーションによって、ナノバブルの圧壊が基板の酸化反応プロセスに与える影響を検討した。まず、ナノバブルを導入した水環境中におけるOHラジカルの挙動を調べた。その結果、ナノバブルに内包されたガス内及び水の密度が疎な場合にOHラジカルが比較的安定に存在することがわかった。また、基板の回転速度を考慮するため、AlN(0001)基板を表面水平方向に強制移動させ、基板上のナノバブルに表面垂直方向の衝撃波を与えて圧壊させたシミュレーションを行った。その結果、ナノバブルの圧壊により生じたジェット流は基板に対して斜め方向に衝突するようになり、基板の移動を考えない場合よりも表面を削り取るように基板に衝突し、AlN(0001)表面が水との化学反応により酸化した。また、酸化されたAlN(0001)表面の範囲も増加しており、基板に対して斜め方向のジェット流を生じさせることで、難加工材料における研磨速度の向上が期待されることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、難加工材料のCMPに有効な砥粒及び研磨液中の酸化剤を最適化を可能とする、分子動力学法に基づくAlN、SiCといった難加工材料の高効率なCMPシミュレータの開発を行うことを目標としている。ここで化学反応と応力、摩擦といった機械的作用が複雑に絡み合ったCMPプロセスを検討するためには、高精度かつ大規模なシミュレーションを行う必要がある。さらに、本研究課題では、難加工材料の高効率なCMPに向けたスラリー中における化学反応種を検討する。ここで、nmオーダーの泡であるナノバブルをCMPに導入することで、難加工材料の研磨速度が向上すると実験的に報告されている。本年度は、化学反応活性種としてナノバブルに着目し、ナノバブルの導入がCMPに与える影響をReaxFFを用いた分子動力学法による原子レベルの解析を行った。一般的にナノバブルに衝撃波を与えることで圧壊すると、生じたOHラジカルによって基板が酸化すると考えられている。本シミュレーションでは、ナノバブルの圧壊によって生じるOHラジカルが安定するサイトを明らかにしており、また基板の回転速度がナノバブルによる基板の酸化作用に与える影響を明らかにしている。以上より、本研究における進捗状況はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
SiC及びAlN基板といった難加工材料に有効なCMP手法を設計するためのCMPシミュレーション手法を開発するため、引き続き反応力場分子動力学法に基づくナノバブルを活用したCMPシミュレーションを行う。高品質の基板を得るためには、高い平坦度に加えて研磨後にスクラッチの少ないCMPプロセスの確立が重要である。そこで、スクラッチの除去プロセスに与える影響を検討するため、切欠きのある基板モデルを作成し、ナノバブルの圧壊によって生じるジェット流が引き起こす、切欠きモデルにおける酸化反応ダイナミクスを検討する。酸化といった基板構造の変質プロセス及び、ジェット流による連成的な基板構造の変形を明らかにすることで、ナノバブルを活用した研磨後における基板の構造に与える影響を検討し、原子レベルの平坦度及び高い研磨速度を実現可能なCMP技術を理論的に設計するためのシミュレーション技術を確立する。また、ナノバブルは溶液中の陽イオンによって寿命が大きく減少するなど、スラリー内の環境に大きく影響されることがわかっている。そこで、様々なナノバブルに内包されたガス種及びスラリー内の酸化剤を導入し、様々な環境においてナノバブルを圧壊させ、基板への酸化反応プロセスに与える影響を検討する。以上のシミュレーションからCMPが効きにくい基板に対して、有効なナノバブルに内包されたガス種及びスラリー中の化学反応活性種を選定することで、平坦度の高い高品質な基板を得るための、ナノバブルを活用した難加工材料に対するCMPプロセスを最適化する。
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