パワー半導体素子材料の成長基板に用いられるAlN及びSiC基板は高硬度と高い化学安定性を有する難加工材料であり、少ない欠陥で且つ高効率に研磨する手法の開発が強く求められている。実験的に研磨スラリーにナノバブルを導入することで、研磨速度及び平坦度が向上することが報告されている。また、ナノバブルに衝撃波を与えると圧壊し、ジェット流及びOHラジカルが生じた後に、基板を酸化させることがわかっている。本年度は、欠陥が少ないCMPのためにはジェット流による基板の変質プロセスを制御する必要があると考え、ナノバブルの導入条件がナノバブル圧壊後による基板の酸化反応プロセスとCMPに与える影響を反応分子動力学シミュレーションを用いて検討した。ここでは、密度を一定とし、ナノバブルのサイズと個数を変えてAlN(0001)基板上に配置したモデルにおいて、ナノバブルを圧壊させるシミュレーションを行った。10.4 nmのナノバブルを1個配置した圧壊シミュレーションでは、生成したジェット流が局所的に基板に衝突し、衝突した箇所周辺でAlN基板の変形と酸化層の生成が見られた。一方で、6 nmのナノバブルを5つ配置した圧壊シミュレーションでは、酸化層は基板上に均一に生成したが、AlN基板の変形量及び生成した酸化層の厚さは前述の大きなナノバブル一個を配置したシミュレーションよりも小さい値をとった。この原因を明らかにするため、ナノバブルの圧壊によって生じるジェット流の速度分布を解析した結果、複数のナノバブルを高密度に導入した場合、ジェット流が打ち消し合ってAlN基板に届くまでに速度が減少することを明らかにした。少ない欠陥で高効率にCMPを行うためには基板を均一に酸化することが重要であり、本シミュレーションより酸化量と均一な酸化層を両立するナノバブルのサイズと個数の適正値があることが示唆された。
|