研究課題/領域番号 |
17K06117
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
竹市 嘉紀 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40293758)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PTFE / フッ化 / フッ化金属 / トライボケミカル / アルミニウム合金 / 銅 / 摩耗 / 脆性 |
研究実績の概要 |
PTFEが低摩擦を示すメカニズムの一つとして,PTFEが摩擦相手の金属面に移着膜を形成し,PTFE同士の摩擦になることが知られている.また,移着膜の形成にはPTFEとの摩擦によって生じる金属表面のフッ化層が寄与しているとする報告がある.前年度までの研究成果より,アルミニウム合金をPTFEと摩擦すると,その表面がフッ化してフッ化金属を形成し,これが主因となりアルミニウム合金の著しい摩耗を引き起こすことが明らかとなり,これはPTFE移着膜形成のメカニズムの成立を大幅に阻害するものである. 我々は,前年までの研究成果より,形成されたフッ化金属の量やその機械的特性によっては,母材から脱離しやすく,結果的にPTFE移着膜形成を阻害すると推察した.しかし,フッ化金属の物性については知見が少なく,摩擦面で形成されるフッ化金属の量が少ないため,機械的に強度を計測することが困難である.そこでアルミニウム,鉄,銅の三種類の金属粉末をフッ化水素酸と反応させてフッ化金属粒子を作成し,外力負荷前後の金属粉末粒子の形状変化をSEMで観察することで,フッ化金属の機械的特性を定性的に把握した.その結果,未処理金属粉末はいずれも塑性変形をしたのに対し,フッ化金属は脆く崩れる変化を示し,脆性な材料になっていることがわかった.この変化は,鉄の表面の錆などと同様に,比較的低負荷な外力によっても脆性な破壊を引き起こし,容易に母材から脱離すると考えられる. 以上より,PTFEとの摩擦において,アルミニウム合金のしゅう動面にはフッ化アルミ(オキシフッ化アルミニウム)が形成され,この脆性が故に,摩擦力によって破壊され表面から微量ずつ脱離することによって,PTFE膜の移着を阻害するというメカニズムが明らかとなった.また,金属種によってフッ化物形成の様子がことなり,これが摩耗特性にも関係していることが推察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PTFEとの摩擦によって金属表面にフッ化金属が形成されることは知られているが,その形成は摩擦現象に対しては肯定的に捉えられることが多い.すなわち,PTFEはプラスチックで最も低い摩擦を示すことから,PTFE固有の相手金属のフッ化現象は低摩擦に関与しているであろうというものである.近年,シミュレーション分野の進展によりPTFEによる金属のフッ化現象についても研究成果が報告されているが,摩擦においては,摩耗という挙動の把握が本質的に困難な現象であることを留意しなければならず,今年度の成果でもその点が重要であることが再認識された.すなわち,摩擦面に用いられるであろう金属において,PTFEとの摩擦で形成されるフッ化反応は必ずしもトライボ的に好ましい反応とは限らず,金属種によっては避けるべき事象であるということが明らかとなった.一方,アルミニウムでは摩耗が顕著であるが,銅の場合には状況が大きく異なる.金属種によるフッ化反応の差異がどのような因子に左右されるのか,十分な理解ができておらず,この点が今後の課題になる. 以上の成果については,2018年に開催された「トライボロジー会議 2018 秋 伊勢」において学会発表を行い,活発な意見交換がなされた.また,2019年の秋に開催される国際会議「International Tribology Conference 2019, Sendai」において,口頭発表とポスター発表で,合計2件講演予定である.
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今後の研究の推進方策 |
前年度の実験において,アルミニウム,鉄,銅のフッ化金属は,脆い性質であることが把握でき,PTFEとの摩擦による異常摩耗の一因として有力であることがわかってきた.ただし,アルミニウム合金をPTFEと擦ったことで形成されるフッ化アルミニウムが,フッ化水素酸処理したアルミニウムと同じ物質である保証はなく,特に,アルミウム合金の場合には表面の自然酸化層がフッ化したものであるため,オキシフッ化アルミニウムであると考えられる.この機械的特性を把握することに取り組まなくてはならない.前年度はフッ化水素酸に金属を溶解させる処理を行ったが,この取り組みのためには,表層だけでなくバルクとしての酸化アルミに対し,希釈したフッ化水素酸を反応させるなどして,オキシフッ化アルミニウムの形成ができるのではないかと考えている. PTFEとの摩擦における金属球の摩耗を,異なる金属種(アルミニウム合金,純銅,ステンレス鋼)で比較した結果,アルミニウム合金とビッカース硬度で大差のない銅はほとんど摩耗することがなかった.また,摩擦面の表面観察の結果,ステンレス鋼よりもむしろ純銅の方が摩耗が少ない傾向にあった.このことと,各種金属のフッ化水素酸との反応具合より,銅はフッ化に対して耐性のある金属であり,そのことがPTFEとの摩擦で観察された摩耗量の差異とも強く関連していると考えられ,この点に関する知見を深めていく必要がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
摩擦面での化学反応を明らかにすることの重要性から,XPS分析の頻度を当初予定より大幅に増大させなくてはならず,結果,共同利用分析装置の使用量が想定より大幅に増額した.また,前年度に大変興味深い成果が得られたことから,国際会議での発表を早め,その旅費が計上された.このため,他の装置で代用が可能となったプレス機と研磨機については購入を見送った.
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