今年度は耐食性に優れるステンレス鋼におけるPTFEとの摩擦によるフッ化反応とそれによって引き起こされる摩耗について詳細に調べた.従前の金属球を用いた摩擦試験形態の場合,接触部である金属先端のフッ化物が摩耗により除去されてしまうことから,本実験では金属試験片表面の同一箇所をPTFE球が一方向に繰り返し摩擦する形態をとった.この結果,耐食性の高いステンレス鋼SUS304にも関わらず,PTFEと擦った摩擦面に錆のような損傷箇所が複数見受けられた.通常環境では長期間錆びることのないステンレス鋼において容易に錆が見られるとすると,ステンレス鋼の主成分である鉄がPTFEとの摩擦によってフッ化し,そこが起点となって酸化が促進され,いわゆる腐食摩耗(酸化摩耗)が起きたと考えられる.また,この場合,摩擦環境中の水蒸気の影響が大きいと考えられる. そこで,試薬グレードのフッ化金属粉末を用い湿潤環境下で置かれた際の変化を調べた.その結果,フッ化鉄Ⅱおよびフッ化鉄Ⅲの粉末は,外観ならびにSEM観察による結晶の様子が明確に変化し,また,EPMA分析の結果では,湿潤環境に置く前と比較して大幅に酸化が促進されていることがわかった.一方,試薬グレードのフッ化アルミ粉末の場合には外観,粒子形状ならびに酸素ピークの強度についても特段の変化は見られなかった.このことから,ステンレスの主成分である鉄がフッ化した場合,フッ化アルミと比較して大気中の水蒸気との反応が進みやすく,このことが腐食摩耗の要因となったと考えられた.従って,本来であれば耐食性に優れるステンレスにもかかわらず,PTFEとの摩擦によって無視できない量の金属側の摩耗が見られたのは,単にフッ化のしやすさのみでなく,その後の水蒸気との反応性が影響していると結論づけられた.
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