研究課題/領域番号 |
17K06125
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
菊川 久夫 東海大学, 工学部, 教授 (50246162)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 強度評価 / 人工膝関節 / 超高分子量ポリエチレン / 放射線照射 / 強靱化 |
研究実績の概要 |
人工膝関節の脛骨コンポーネントなどには、耐摩耗性に優れた超高分子量ポリエチレン(以後UHMWPEと略す)が使用されている。その強化方法の一つとして放射線による架橋促進が挙げられる。従来までに、UHMWPEの照射による機械的特性(圧縮強度、硬さなど)の変化と、分子構造の変化(発生ラジカル種、架橋促進、酸化度など)との対応関係を経時的に調査した研究は見当たらず、人工関節に用いられるUHMWPEの寿命予測を難しくしている。本研究では、接触部分の耐久性向上が困難な現行の人工関節材料において、電子線照射技術によって、関節表面に優れた低ヤング率、低摩耗、高強度の高分子材料の生成や接触面圧力の低減の可能性について、照射による医療用UHMWPEの塑性流動圧力向上と分子構造の経時的変化の観点から考察・検討することを目的としている。 本年度は研究の遂行上、評価の対象として必要となる、引っ張り試験片についても測定の対象として加えた。本実験に用いる引っ張り試験片は、市販のUHMWPEのシートより機械加工により製作することができた。 電子線照射効果との比較を行うため、ガンマ線の照射試験片についても実験の対象とするため、一般の滅菌の行程で行うことができた。電子線の照射については、装置の照射条件の決定に難渋し、照射試験片の作製を現状では行えていない。 引張試験については、ガンマ線照射試験片について、照射線量25kGyの試験片についてヤング率、降伏強度の測定が行なわれ、強靭化を示唆する結果が得られている。なお、電子スピン共鳴装置により、照射後のUHMWPE中のダングリングボンドの存在を確認しており、現在ラジカル種の分析中である。これに加え、有限要素解析ツールのセットアップを行い、人工膝関節モデルの有効性の評価に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年の進捗状況でも述べた通り、市販の医療用の超高分子量ポリエチレン(GUR 1020)が現状で入手困難であることが上げられる。医療用高分子量ポリエチレンの購入については、国内で人工関節等が製造されている場合には、製造業者が輸入商社より購入するため国内に在庫があり、この製造業者より購入することが可能である。しかし、現在、国内に在庫が乏しく、輸入の予定が未定という現状で、医療用高分子量ポリエチレンの入手が困難な時期になっている。 また、放射線の照射条件の決定に時間がかかっていることなどが主な理由である。特に、γ線の照射については、外注により行っているが、滅菌料金が近年2倍から3倍程度に高騰しているため、評価に必要な250kGyの高線量の照射による試験片の製作を難しくしている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況でも述べた研究の遅れに対し、平成29年度に構造解析用のソフトを購入した。これらを用いてシミュレーションを前倒しで行える準備が整い、平成30年度は解析モデルを構築中である。現在、実験的評価と平行して解析を進めているが、今後もこれを継続していく予定である。 現在、国内で入手できない医療用の超高分子量ポリエチレンの代替材料として、工業用の超高分子量ポリエチレンを利用し実験的評価を行っている。引っ張り試験における機械的特性については、工業用と医療用において若干有意差が出ておりさらなる検討が必要である。今後、医療用の材料の入手を待ちながら、工業用の試料を用いて実験系を確立していく予定である。また、電子線の照射条件についても、ガンマ線照射の結果を考慮し、本学内の設備で行えるよう調整を進めているところである。 UHMWPEにガンマ線や電子線を照射すると、C-C鎖の切断やC-H鎖の切断などによりフリーラジカルが生じる。そのため、UHMWPE中のダングリングボンドの存在を確認するために、電子スピン共鳴装置による分析を行う。先行研究を参考にして、分析用の試料は力学試験後の試験片より8mm×2mm×2mmの容積以下の寸法になるように照射表面より採取する。ESRの測定は、試料を石英製の試料チューブに入れ、室温にて変調磁場0.1MHz のX-band(周波数9.45±0.05 GHz)で行う。マイクロ波出力は1.0 mW、測定磁場範囲は317~327 mTとする。
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