本年度はまず、昨年度までの進捗状況の遅れに対する対応として、平成29年度に購入した構造解析用のソフトにより、前倒しで準備したシミュレ-ションをさらに発展させた。関節接触問題を考慮した解析モデル構築のために、MRIにより取得した医療画像を用いた。これらにより、関節内の環境にできるだけ近い状況でUHMWPEに加わる応力を評価できると考えている。本解析には至っていないが、今後、解析条件の確立、調整を続けていく予定である。 また、以上の応力解析に加え、UHMWPEの力学試験を継続的に実施しているが、国内において医療用のUHMWPEが入手困難であった。よって、予定通り代替材として工業用のUHMWPEを用いて実験を継続した。医療用と工業用において、力学的特性について若干の相違を確認したが、未照射の試験片については、ほぼ変化がないということを確認したため本実験に着手した。試験片の製作については、機械加工による材料劣化を最小限に抑え、安定的に試験片を供給できる体制を構築できた。これらを用い、ガンマ線照射によるUHMWPEの引張試験ならびに硬さ試験を行い、照射による力学的特性の強靭化に対する明確な変化を見出すことができた。電子線の照射については、ほほガンマ線の照射線量と同様な条件で行えるように調整できるようになり、予備実験が完了している。 試験後の材料分析については、電子スピン共鳴装置により実施しており、ラジカル種の分析とその評価ができる工程を構築できた。以上より、総合的に接触圧力低減を目的とした、電子線照射によるUHMWPEの強靭化について評価できる条件が整ったと考えている。
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