研究課題/領域番号 |
17K06126
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
舘野 寿丈 明治大学, 理工学部, 専任教授 (30236559)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 設計工学 / 機械工作・生産工学 / 構造・機能材料 / アディティブマニュファクチャリング |
研究実績の概要 |
本研究では,機械的特性、環境対応いずれにも優れた材料であるセルロースナノファイバー(CNF)を用いた高精度・高強度な構造物の設計製作法として、対象物の内部をユニットセルとして設計し、これを積層造形法によって製作する方法の確立を目的としている。 本研究は当初の研究実施計画に沿って研究を進め、3年間の研究計画での2年間が経過し、相応の研究成果が得られている。初年度の平成29年度は、積層造形に向けたCNF材料の準備とその特性評価を実施した。CNF材料の準備においては、CNF材料の自作を試み、パルプ材を超音波加振機によって破砕し、これを乾燥させてシート状の試料を作成した。乾燥時の変化を観察し、収縮評価とした。続いて、シートを短冊状に分割して引張試験を行い、機械的特性評価とした。これらの結果、CNFの自作は可能であったものの、破砕および乾燥の工程が強度に大きく影響を及ぼすことが分かった。また、加工法としてはCNF材料と樹脂との複合材料として積層造形する方法がCNFを用いた構造物製作法として有効であることが分かった。 2年目となる平成30年度は、ユニットセル構造体に着目した研究を行った。材料としてはCNFの代わりに、カーボンファイバーと樹脂との複合材料を用いて積層造形によりユニットセル構造体を製作し、機械的特性の試験を行った。強化材としてのカーボンファイバーは糸の様な状態で構造内に配置されるので、その配置が構造体全体の強度や剛性に影響を及ぼす。このように複合材料を積層造形する技術は最先端であり、この方法で製作されたユニットセル構造体の強度については、まだほとんど研究がされていないため、本研究の成果は、非常に有意義といえる。 今後の研究で、CNF材料と樹脂との複合材料による積層造形を成功させ、ユニットセル構造体の研究成果と合わせて、実用的な設計製作法として確立することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CNF材料については自作したものは特性が安定せず、試作物の造形や造形物の実験的な評価をするのは困難であったため、代替の方法として市販のゲル状もしくはパウダー状のCNFを購入して造形用の材料を作成している。ただし、この場合も積層造形に向けた素材の製作方法は未知である。現在、エレクトロスピニング法(電解紡糸法)に着目し、これにより作成した糸状の材料をさらに加工して積層造形用の材料にすることを試みている。 ユニットセル構造体の設計法については、CNFの代わりにカーボンファイバーと樹脂の複合材料を用いた構造物を対象として研究を進めている。ハニカム構造については、カーボンファイバーの配置のパターンを分類し、それらの配置が機械的強度に及ぼす影響を明らかにするため、実際に造形した構造で引張試験を行った。この結果、カーボンファイバーの配置による効果が明らかとなり、設計法の基礎となる知見を得ている。今後、機械的特性の安定したCNF材料を作成することができれば、今回開発した造形法および構造設計法をそのまま使用し、製作物の実験を行うことができる。 さらに、ユニットセル構造体設計においては、コンピュータシミュレーションによる構造解析、および最適化法を組み込んだ構造最適化に関しても研究を行った。カーボンファイバーなど、強化材の入った部分が他の部分よりも極端に強度および剛性が高いことに着目し、これを梁と見立てたモデリングを提案し、実際にソフトウェアを作成して有用性を評価した。 以上のように、CNF材料の製作法に関しては代替の方法としたものの、ユニットセル構造体の設計法については、実験評価に加えてシミュレーション法の開発まで進めることができ、総合的には、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和元年度は、CNF材料を用いた積層造形により構築したユニットセルの試験・評価を行って、設計製作法の確立を目指す。 まず、CNF材料としてはエレクトロスピニング法によって糸状の素材を作成し、これと樹脂とで機械的特性の安定した積層造形用の材料を製作する研究を推進する。糸状の素材については、素材のみでの強度試験も行い、同じ強化材であるカーボンファイバーとの比較評価を行う。糸状の素材と樹脂との複合材料を積層造形する装置は自作開発しているので、これを用いてCNF素材による積層造形が可能になる。この造形法では製作時における造形物の収縮はほとんどなく、また、層間の接着も樹脂によって接着されるので、形状精度および強度は安定し、申請当初に予定していた造形物の収縮率の実験、および超音波照射による積層面間の強化に関する実験は不要になる。一方で、複合材料による造形を想定した設計製作法の研究について重点的に実施する。ユニットセル構造物の評価実験については、強化材料の配置を変えた実験を追加し、形状精度の評価とともに、強化材料の配置が構造物全体の強度に及ぼす影響を明らかにし、要求される形状および強度を満たす構造の設計法として確立することを目指す。 これらの研究成果は、国際会議を含む国内外の学会で発表するとともに、適切な論文集にも投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議での旅費および参加費の支出が予想よりも多かったため、年度末に予定していた物品の購入や論文掲載料の支払いを見込んで、次年度予算の一部を前倒し請求した。しかし、実際には論文掲載料の支払いは次年度分となったため次年度使用額としての残額があるが、これは既に論文掲載料としての用途となっている。 当初の計画に対して翌年度予算は少なくなるが、翌年度において発表予定している複数の国際会議は国内での開催が多く、このため研究の推進における影響は少ない。
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