最終年度は,前年度までの成果を踏まえ,平板層流境界層中に人為的に導入する局所不安定領域を3パターンに増やし,トリガーとなる噴流の噴射タイミングや噴射位置を様々に変えながら乱流遷移を起こしやすい条件について精査した.撹乱導入装置を構成する3個のスピーカーは,平板上に10mm間隔で設けた3×3の小孔のいずれかに接続されており,その接続場所と駆動タイミングを変えることで導入する速度変動パターンを変化させた.その際,中央の小孔は常に噴射孔として用い,スパン方向の2個の小孔を吸い込み用として同じタイミングで駆動させた場合と時間差を与えて駆動させた場合,さらに対角線上にある2個の小孔から同じタイミングで吸い込みをかけた場合の3ケースを取り上げた.この装置を用いて平板層流境界層内に部分的に乱れやすい領域を作り出し,その領域に対して下流で様々な条件で噴流を短時間噴射して乱流に遷移する頻度を調べたところ,不安定領域中の低速領域が通過するタイミングで噴射しても効果はなく,後続の高速領域に対して噴射したり,あるいはスパン方向に隣接する高速領域との間から噴射したりするなど,低速領域を拡大するように噴射した場合に乱流遷移を起こしやすいことがわかった.これは,ストリーク不安定にみられるような,速度分布の変曲点不安定性が刺激されたためと考えられる.そこで,下流に固定プローブを設置して2点同時計測を行い,乱流が検出された試行のみを抽出してアンサンブル平均を求め,局所不安定領域と短時間噴流の干渉から乱流の発生に至る過程について調査した.その結果,発生した局所乱流領域は乱流斑点であり,またそれは上流で導入した不安定領域そのものが乱流に遷移して形成されたわけではなく,噴流との干渉によってその後流中に形成された低速領域と高速領域からなる2次的な構造が,下流で崩壊して誕生したものであることが明らかとなった.
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