研究課題/領域番号 |
17K06140
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
白井 敦 近畿大学, 工学部, 教授 (20302226)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | HL-60 / Rolling / P-selectin / Pressing force |
研究実績の概要 |
平成30年度は,平成29年度の実験を発展させて,P-selectinを塗布した基板上における分化したHL-60細胞のローリング実験を行うために,基板にP-selectinを塗布する手法を検討した.実際の生体では,P-selectinは血管内皮細胞辺縁部に局在するので,これを模擬するためには,六角形パターンに近似したPDMS基板の凹部にのみP-selectinが塗布された基板を作成する必要がある.そこで,以下に示す手法を試みた. ①空気プラズマで親水処理したPDMS基板をP-selectin溶液に浸漬し,乾燥させた後にガラス平板に接着させることで基板凸部のP-selectinを剥離する. ②コンタクトプリインティング技術を用いてPDMS基板の凸部にBSAまたはブロックエースを塗布し,P-selectin溶液を滴下,洗浄することでブロックされていない基板凹部にのみP-selectinを塗布する. しかし,これらの実験では,P-selectinの接着を蛍光(AlexaFluor594)観察で確認した結果,同濃度のP-selectin溶液に浸漬したガラス平板と比較して蛍光強度が著しく低く,PDMS基板の凸部にも蛍光が見られた.この結果は,P-selectinとPDMSの結合がガラスと比較して非常に弱い上に,P-selectinの剥離やコーティングの成否の確認が困難であることを示唆する.そこで,PDMS基板凸部にFITC-BSAを塗布することで,コーティングの成否を事前に確認することが可能となる.しかし,確認実験において,FITC-BSAを塗布した凸部でも蛍光が見られ,FITC-BSAと抗体との結合が考えられた.また,一連の実験を通じて,P-selectinの塗布濃度にムラが見られ,均一な塗布方法から検討する必要性が示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,実験用備品の移管手続き(実際には国立大学から私立大学への移動のため,無償貸与の形になった)に時間がかかった結果,ガラス平板と比較してPDMSへのセレクチンの安定的な塗布方法が確立出来ていない点から,平成30年度単年で見るとやや遅れているといえる.しかし,平成29年度は順調に成果が得られており,トータルとしては概ね順調といえる. これまでの成果として,①好中球のローリングに対する,凝集した赤血球による好中球の血管壁への押しつけによる影響と,セレクチンとの結合による影響は互いに独立であること,②赤血球による押しつけ力は凹凸のある血管内皮細胞表面で,好中球が内皮細胞辺縁部を通過する一助となること,③(不完全ながら)PDMSを塗布したPDMS基板上では,より多くの好中球が停滞しうることが明らかになった.③は,当初の計画では平成31年度に行う予定の実験である.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題のテーマである好中球のローリングに不可欠な傾斜遠心顕微鏡をはじめとした実験機器の多くは,前任校(東北大学)の運営費交付金等で購入したものや,前所属研究室の教授が購入し,共同で利用しているものもあるうえに,現在も他テーマで利用されているため,移動することが困難である.さらに,実験に用いるHL-60細胞の培養には最低でも2週間が必要であり,仙台に移動しての細胞実験は現実的ではない. そこで,平成31年度は,PDMS基板へのP-selectinの塗布方法について継続的に検討を行うとともに,これまで得られた成果を基にして,血管内における好中球の流動モデルの構築を行う計画である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は,約12万円の繰り越しがあるが,実際は約30万円の赤字である.研究代表者の転職に伴って実験用消耗品を揃えるための支出が当初計画より大幅に増えた上に実験機器類の移送費がかかったため,旅費の支出の一部を平成31年度予算から行うとした.よって,平成31年度は,この旅費を差し引いた上で,研究を遂行する予定である.
|