研究課題/領域番号 |
17K06142
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小原 哲郎 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80241917)
|
研究分担者 |
石井 一洋 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (20251754)
前田 慎市 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60709319)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | デトネーション波 / 消炎 / 回折機構 / フレーム・アレスター / 衝撃波 |
研究実績の概要 |
可燃性気体の流れる配管内でデトネーション波が発生すると,設備に深刻な被害を及ぼす可能性があるため,デトネーション波を消炎させる技術を確立することが重要となる.既存のアレスターに用いられている消炎素子の間隙は極めて小さいため,アレスターを通過時の流量が小さくなることが問題である. 本研究ではデトネーション波を回折させる機構にフレーム・アレスターを接続したハイブリッド型のアレスターを構築した.アレスター下流を伝播する燃焼波の挙動の観察および流量を測定することで,既存のデトネーション・アレスターの流量低下の課題を改善することを目的とした. 実験には内径20 mmの円筒管にデトネーション波を回折させる機構にフレーム・アレスターを接続した装置を用い,化学量論混合比の水素空気予混合気を充填して実験を行った.回折機構には多孔板を用い,外径の孔の径D,板厚Lおよび回折させる回数nを変化させた.フレーム・アレスターは消炎素子の間隙Rおよび枚数Nを変化させた.本研究で得られた知見を以下に要約する. (1)回折機構出口における火炎の伝播速度を低下させるには,D=60 mm,L=14 mm,n≧7の条件とすることが有効であり,火炎は回折機構入射前の約20%にまで減速された. (2)回折機構にフレーム・アレスターを接続しデトネーション波を完全に消炎させるには,以下の3条件とすることが有効である.(a)D=60 mm,L=14 mm,n≧3,R=0.2 mm,N=2,(b)D=60 mm,L=14 mm,n≧5,R=0.2 mm,N=1,(c)D=60 mm,L=14 mm,n≧5,R=0.4 mm,N=4. (3)これらの条件のうち,流量を最も大きくするには,D=60 mm,L=14 mm,n=5,R=0.2 mm,N=1の条件とすることが有効であり,既存のアレスターと比べて流量が約1.5倍に増加した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多くの孔を設けた多孔板にデトネーション波を入射させることにより,デトネーション波の伝播速度が大幅に低下することが明らかにされ,多孔板の条件によっては入射前のデトネーション波の伝播速度の20%程度にまで下がることが明らかにされた.このようなデトネーション波の速度低下をもたらす原因を探るため,50 ×50 mmの断面を有するデトネーション管を用いた可視化実験を行っている.実験では,多孔板を最大で4枚挿入し,各多孔板からデトネーション波が回折する挙動について,シュリーレン光学系および超高速度ビデオカメラを用いた可視化観察を行っている.デトネーション管には,水素と酸素の混合気体を約100 kPaまで充填し,多孔板にChapman-Jouguetデトネーション波を入射させている. その結果,多孔板から回折する回数が増加するにしたがって,デトネーション波が衝撃波と燃焼波に分離する挙動が明らかにされた.このような結果は,円管を用いた場合に可視化観察することが困難であったデトネーション波の減速メカニズムを説明するものであり,多孔板に設ける孔の形状,数,配置など,回折機構の設計条件を決定するにあたり,重要な知見であると考えられる.また,このような知見により,上述した多孔板およびフレーム・アレスターの条件を決定することができた.さらに,回折機構によりデトネーション波の伝播速度を低下させた後,フレーム・アレスターに入射させることにより,熱損失により燃焼波が消炎する結果が得られた.回折機構により伝播速度を低下させておくことにより,燃焼波の熱損失が生じやすい条件となるため,フレーム・アレスターに用いている消炎素子の間隙を比較的大きい条件でも消炎に成功している.これにより,流量が低下する問題を改善することができた.上述した理由により,本研究の進捗状況は概ね順調であると考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
上述した50×50 mmの断面を有するデトネーション管に挿入する多孔板の枚数を増加させ,デトネーション波の減速過程を可視化観察することにより詳細にすることを計画している.これまでの実験では,最大で4枚の多孔板を挿入して実験を行ってきたが,デトネーション波の伝播速度は未燃気体の音速程度まで減速した後は一定となり,減速しない結果が得られている.デトネーション波は衝撃波と燃焼波に分離するが,燃焼波から生じる圧力波が前方を伝播する衝撃波を補強するため,衝撃波は減衰しない可能生が高い.そこで,燃焼波から生じる圧力波をさらに減衰させるための機構が必要と考えられ,形状の異なる多孔板を種々挿入することにより,衝撃波および燃焼波の減速過程について明らかにすることが次の課題である. 第2に,多孔板の下流にフレーム・アレスターを挿入し,フレーム・アレスターによって燃焼波の消炎の成否について,高速度ビデオカメラ,圧力変換器による圧力計測およびフォトトランジスターを用いた発光を検知することにより,明らかにする計画である.具体的には,回折機構の下流に挿入するフレーム・アレスターの消炎素子形状を種々変化させ,多孔板下流を伝播する衝撃波および燃焼波の伝播速度に対する消炎成否の関係を明らかにすることを計画する.また,デトネーション管に充填する水素-空気予混合気体の初期圧力についても変化させ,初期圧力と消炎成否の関係についても整理する予定である. 第3に,上記の研究により得られた最適な多孔板およびフレーム・アレスターを内径20 mmの円管に挿入し,デトネーション波の消炎過程を明らかにする計画である.また,内径50 mmの円管にも同様のアレスター装置を挿入して実験を行うことにより,デトネーション・アレスターを設計するための客観的なデータを得ることを最終的な推進方策として考えている.
|