研究課題/領域番号 |
17K06143
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
半場 藤弘 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20251473)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 乱流モデル / RANS / LES |
研究実績の概要 |
本年度はレイノルズ平均モデル(RANS)とラージ・エディ・シミュレーション(LES)のハイブリッド乱流計算における境界面の乱れ生成のモデリングの研究として以下の2項目について研究を実施した。 1. スケール空間のエネルギー輸送に伴う渦構造の解析 さまざまなスケールの渦運動に伴う速度場を区別して扱うために、二点速度相関にフィルター関数による積分を施すことによって、スケール空間における新たなエネルギー密度を提案し、エネルギーの輸送方程式を定式化した。チャネル乱流の直接数値計算(DNS)のデータを用いて検証を行い、スケール間のエネルギー輸送の解析を行った。その結果多くの部分でエネルギーの順カスケード、すなわち大スケールから小スケールへのエネルギー輸送が起こっているが、壁付近の一部のエネルギー成分には逆向きのカスケードが見られることがわかった。そこで条件付平均の手法を用いて、逆カスケードに伴う渦構造を抽出し、大スケールの渦が駆動される機構について考察した。これらの成果は、ハイブリッド乱流計算においてRANS領域からLES領域へ切り変わる境界面で、乱れ速度が生成されることと大きな関連があり、適切なモデル化のために重要な知見となる。 2. 乱れ生成のためのエネルギー散逸率、レイノルズ応力と圧力拡散項のモデリング スケールの変化による乱流の生成量を把握するには、エネルギーカスケードの量を表すエネルギー散逸率が重要となる。そこでエネルギー散逸率の厳密な輸送方程式の主要項に着目し、k-εモデルに用いられる散逸率のモデル方程式の消散項を理論的数値的に解析を行った。また乱流エネルギー輸送方程式にはレイノルズ応力項と圧力拡散項が含まれるため、それらの項のモデル化を回転系乱流と乱流ヘリシティーに着目して検証した。これらの成果もRANS領域とLES領域の境界面で乱れ速度を生成する手法を開発する上で重要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はRANS領域とLES領域の境界面で乱れ速度を生成する手法を開発するために、チャネル乱流のDNSデータを用いて新しく提案したエネルギー密度とその輸送方程式を解析した。その結果、壁面近くで一部のエネルギー成分に逆方向のエネルギーカスケードがあることを見出し、条件付平均の手法を用いて渦構造を抽出した。チャネルの主流方向に伸びた主要な縦渦の上流側に、逆方向に回転する縦渦が存在し、二つの縦渦が近接するところで逆カスケードが大きいことがわかった。さらに渦度方程式の値を評価すると、実際にこの部分で縦渦の回転が駆動されていることが示された。したがって乱れ生成のモデルは、この縦渦の回転の増加を再現するべきであるという大きな指針が得られた。 さらに境界面での乱れ生成のモデリングの基礎として、エネルギー散逸率、レイノルズ応力と圧力拡散項のモデルについて理論的数値的な解析を行った。散逸率の輸送方程式の消散項の導出には低波数領域でエネルギースペクトルの補正が必要なことがわかった。またヘリシティーと渦度を用いたレイノルズ応力のモデル項は平均流生成を適切に再現すること、レイノルズ応力の実現性条件を満たす定式化を行うことによって乱流の非等方性を適切に評価できることが示され、これをLESのモデルに用いれば壁面での乱れ生成のモデルの候補の一つとなる。 当初の研究実施計画と比べ、チャネル乱流でのハイブリッド計算はやや遅れているが、理論的な定式化のために必要な知見の取得は進んでおり、現在までの研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
RANS領域とLES領域の境界面で乱れ速度を生成するモデルとして、まず当初に計画した、正規分布の初期速度から出発して非等方非一様な乱流場を導くための輸送方程式の導出を行う。それに加えて、独自のフィルター操作を用いたスケール空間のエネルギー密度の定式化において、フィルター幅の非一様性から導かれる速度の付加項を元にして、乱れ速度の生成のモデル化を試みる。 それぞれのモデル化の際に、今年度導いたスケール空間のエネルギー輸送に伴う渦構造の知見を利用する。渦の回転は通常は渦粘性の効果により減衰するが、壁近くに見られた縦渦の回転はそれに反して増加の傾向が見られた。この傾向を説明し再現できるようモデル式の検証と修正を行う。特に、今年度導いたヘリシティーと渦度を用いたレイノルズ応力と圧力拡散項のモデルは、修正に用いる有力な候補となる。 そして、チャネル乱流のDNSデータを用いて導出したモデルを評価し、乱れ速度の生成に寄与することを確認する。特に、乱流場のデータを用いて乱流エネルギー輸送方程式に含まれる付加項の効果を考察する。さらに、導出したモデルを組み入れて、実際にチャネル乱流において境界面を壁に平行に設定した場合のハイブリッド計算を行い、乱れ速度生成の効果を確認する。 上記の検証が順調に行けば、一様等方乱流あるいはチャネル乱流において上流から下流に向けてRANS領域からLES領域に切り替わる境界面を新たに設定する。この場合もまずDNSデータを用いてモデル式の効果を確認し、その後実際にモデルを組み入れてハイブリッド計算を行い、乱れ速度生成の効果を検証する。
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