研究課題/領域番号 |
17K06145
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
堀内 潔 東京工業大学, 工学院, 准教授 (10173626)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 粘弾性流体 / 乱流 / 高分子 / ダンベルモデル / 多重スケール解析 / 抵抗低減 / 反変共変性 |
研究実績の概要 |
本研究は、高分子添加溶液の流動において、高分子が貯蔵する弾性エネルギーの効率的な生成を可能にする高分子の配向の解明により、実効的な抵抗低減が図れて実際の高分子の運動をより正確に記述する新規高分子モデルを創出する事を目的とする。現在汎用されている高分子モデルでは、溶媒の変形に対する追随性が仮定されているが、高分子の伸長が大きくなるにつれて伸長が飽和して弾性エネルギーを放出する事 (EIT) が知られている。このため、平成29年度は、高分子をdumbbellで近似し、その伸長度合に応じた非追随性強度の可変性を導入したモデルの構築を行った。従来の反変型のモデルでは dumbbell は渦層に沿った面方向に配向するが面内を回転した場合EIT発生の削減が図られる事を示し、回転されたdumbbellの配向をより正確に表現する非追随性強度を与える表式を導出した。この新規モデルをBDS-DNSのコードに導入して並列計算を実行し、dumbbellの伸長に伴って配向が渦層に垂直な方向に転じて共変型に変換されて、EITが回避される事を明らかにし、この両型間の変換が概周期的に反復される事を示した。最大の弾性エネルギー生成は,伸長の大きな共変型のdumbbell において得られ,伸長が中間値の反変型dumbbell が中間値の弾性エネルギー生成に寄与ことを明らかにし,働くアリと働かないアリの機能の棲み分けに類似した反変型と共変型の機能の相補性の存在を示した。これは、全dumbbellが反変型および共変型に固定したモデルにおいて得られた結果と整合する。更に、mesoscopicなスケールの各dumbbellにおける非追随性強度からmacroscopicなスケールにおける非追随性強度を算出する方法を開発して、macroscopicなスケールでは、非追随性強度が最小および最大の値域にある頻度が高いが、最大の共変型の値域が僅かに卓越する事を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Dumbbellのモデルとしては、常に反変型もしくは共変型を維持するdumbbellが共存して分布し、伸長が中間値領域では反変型のみ、最大値近傍では共変型のみが機能するという編成も考えられる。このため、平成29年度は、先ず、反変型に固定したdumbbellと共変型に固定したdumbbellを同数混合して分散したモデルによるBDS-DNSを一様等方性乱流において行い、反変型と共変型の高分子が担う相補的な役割を確認し、全てのdumbbellを反変型に固定した場合と共変型に固定した場合の平均値の抵抗低減が得られる事を示した。次に、当初の予定通り、新規モデルの構築作業に移行して、その導出を完了した。このモデルの予備的検証をdumbbellの個数を10の7乗個とした単一ノードでのBDS-DNSにより行ったが、これらの作業が順調に完了したため、平成30年度に予定していたdumbbellの個数を10の9乗個に増加した128ノード上の並列計算によるBDS-DNSによるモデルの検証に移行し、新規モデルにより得られる抵抗低減強度の算定作業まで進める事が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に構築された新規モデルの問題点の一つは、得られた抵抗低減が、従来の全dumbbellを反変型に固定したモデルの場合に近い値を示し、全dumbbellが共変型に固定したモデルにより得られる顕著な低減が達成できなかった点にある。これは、dumbbellが回転を行う際にその非追随性が中間値を取る配向にある時間帯を通過するが、この時間帯において弾性エネルギーの生成が低減するためである。平成29年度は、この欠点を改善する補正の新規モデルへの導入を、中間値を取る時間帯の滞在時間の低減により行った。しかしながら、この補正は経験的に導出されており、その理論的な根拠は乏しいため、平成 30年度は補正の理論的な導出を試みる。一方で、この特性が、実際の高分子でも発生している可能性はあるため、過去の高分子添加溶液の実験によるデータの解析を並行して行う。 高分子モデルとして、BDS-DNSの工学的に実用的な計算への適用は困難であり、高分子応力の構成方程式を用いたDNSが一般に汎用されている。このため、平成30年度は、新規高分子モデルに基づく構成方程式モデルの導出を図る。ここでは、dumbbellのconnector vectorの運動方程式からconformation tensorの支配方程式を導出し、macroscopicなスケールでの粗視化を施す事による構成方程式、ならびに、平成29年度に提案されたmacroscopicな非追随性強度の表式のmacroscopicな変数による表現の構築を試みる。次に、この構成方程式を用いたDNSを実行して、BDS-DNSの結果との整合性の検証を行う。
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