研究課題/領域番号 |
17K06146
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田口 智清 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (90448168)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 滑りの境界条件 / 気体論境界層 / ボルツマン方程式 / マイクロスケール気体流 |
研究実績の概要 |
低圧気体あるいはマイクロスケールの気体では,外力が働かない系においても境界の壁面温度の非一様性によって定常な流れが誘起される.温度場に起因する流れは一般にボルツマン方程式による解析が必要となる.しかし系の希薄度(微小化の度合い)が小さい場合には,温度場に起因する流れを流体力学的方程式とそれと併せて用いるべき適切な境界条件(滑りの境界条件)によって記述することが可能である(滑り流理論).本研究は,従来の滑り流理論の前提条件である,境界の壁面温度分布が滑らかであるという条件を緩め,不連続的な境界データの場合に理論を拡張することを目指す試みである. 29年度は,不連続的な境界の壁面温度によって誘起される流れの詳細構造を把握するため,2次元矩形領域内の気体を考え,不連続的な跳びをもつ壁面温度によって誘起される流れの振る舞いをボルツマン方程式の簡易モデルに基づいて数値的に調べた.ここでの主眼は,不連続点近傍での流れ場の局所構造を気体分子の平均自由行程のスケールで見たときに,平均自由行程によらない普遍的な構造が見られるかを調べることである.解析においては現象の本質が非平衡性にあることに着目し,衝突項を線形化した方程式を用いることでより詳細な解析を行った.その結果,大域的な希薄度を徐々に小さくしたとき,温度場が予想した構造に漸近することを確かめた.しかし流速場は当初予想していた渦糸より複雑な構造をしていることが明らかになった.このことを裏付けるため,同時に2次元境界層の数値解析を開始した.その結果,非圧縮性ストークス方程式の厳密解である(線形化された)ジェフリー・ハメルの解(JH解)が適合する可能性が示唆された.JH解も特異性を持つ解であり,これを駆動源として巨視的流れを記述するシナリオを検討することにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初もっとも単純な特異性である渦糸をもとに境界データの不連続性に起因する流れを巨視的に記述するシナリオを予想していた.しかし実際の数値解析の結果,不連続点近傍の流れの局所構造の表現として,ナビエ・ストークス方程式の解の一つであるJH解に着目することで特異性によって駆動される流れを記述できる可能性が示唆された.JH解はくさび形の頂点に湧き出しまたは吸い込みがあるときの流れを表現するが,特別な場合として平板上の一点に湧き出しと吸い込みが同時に存在する場合を考える.JH解にモファットの解を重ね合わせた形で特異性をもつ解を構成するアイデアである.当初の想定とは少し異なっているが,特異性に着目して滑りの境界条件を求めるという観点では当初案と同一線上にあり,また新たな着眼点が得られたので概ね順調に進んでいると判断する.また,速度分布関数の不連続性に関連する主題として,球まわりの流れにおいて境界上で生じる巨視量の特異性を調べている.
|
今後の研究の推進方策 |
線形化されたJH解とモファット型の解を足がかりに2次元境界層の解析をさらに進める.実際の数値解析はボルツマン方程式の簡易モデルに基づくが,理論的な枠組みはこれまでと同様ボルツマン方程式に適合させて進める.(線形化した)JH解は線形化ボルツマン方程式の空間的変化の緩やかな解として得られるが,その大きさは,線形化ボルツマン方程式に基づく2次元境界層問題の流量を調べることで得られる(予想).この構造を確かめるために,2次元境界層問題に適合する相似解を見つける.相似解を適用することで,境界層問題の解析を精度良く行い,情報縮約の鍵となる流量(湧き出し・吸い込み量)を決定する. 同時に2次元矩形領域における流れの数値解析をさらに精度良く行い,漸近解析の検証データの整備を進める.2次元境界層問題の解析により流量が定まった段階で,2次元矩形領域におけるストークス方程式を,境界上の点に湧き出し・吸い込みを与えて解く方法の検討を開始する.これには既存の有限体積法の検討からはじめ,境界積分法も同時に検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品購入(ワークステーション)の結果少額の未使用額が発生したが効率的な活用のため次年度に使用することにした.
|