研究課題/領域番号 |
17K06150
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
松原 雅春 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (10324229)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 乱流 / カスケード / 渦 / 二次不安定性 / 変曲点 |
研究実績の概要 |
乱流でのエネルギーカスケードは,大きい渦から小さい渦にエネルギーを渡していき最後に熱エネルギーとして消散する現象であるが,乱流エネルギースペクトル分布などの乱流の性質を決定するため重要である.しかし,乱流カスケードは乱流中でランダムに発生し,さらにカスケードを起こす乱れ構造が多様なため,また個々のカスケード過程を追跡し,分類・解明することは容易でない.一方,壁面から乱流境界層に点状の初期撹乱を挿入し,励起された周期撹乱の位相に基づいてアンサンブル平均することで,ヘアピン渦に似た秩序構造を抽出する方法が開発された.抽出された秩序構造は初期撹乱が強くなると速度分布に変曲点が生じ,変曲点付近で横方向に波状になる変曲点型不安定性が起こることが予想される.二次不安定性で生じる乱れの構造は元の秩序構造よりもオーダー的に小さいため,その過程は乱流のスケールのオーダーを超えてエネルギーを渡すカスケード過程の一つと見なせる. 本研究ではカスケードを起こす線形乱れを低周波撹乱で人工的に励起し,さらにそこに発生する二次不安定性を高周波撹乱で制御し,それらの三次元構造の時間発展を実験的に測定する.その結果からカスケードのエネルギー量や,カスケードが起こる空間分布を特定し,カスケード過程を定量的に明らかにする.本研究ではこの手法の確立を最終的なゴールとする.この手法により様々なカスケード過程を調査すれば,カスケード過程の学術的な解明につながるものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験では,二次元チャンネル乱流中に強い低周波初期撹乱を壁に空けられた小孔から挿入することで,変曲点速度分布を持つ秩序構造を発生させ,さらに同じ小孔から高周波初期撹乱を付加し,秩序構造に発生する変曲点型不安定性を熱線計測で調べた.流速の時系列データを挿入した低周波初期撹乱の位相に基づいてアンサンブル平均し,初期撹乱によって励起した構造を抽出した.強い低周波初期撹乱のみを挿入すると,小孔から吹き出した時に低速ストリークが発生し,変曲点を持つ速度分布が現れる.低周波初期撹乱による非線形性が現れ,吹き出しと吸い込みの速度変化には対称性が失われている.2018年度は,低周波撹乱の周波数を10Hzにし高周波撹乱の周波数を200Hzに設定したところ,低速領域の外縁の変曲点付近に二次不安定性と思われる強い高周波速度変動が分布することが確認された.これは大きな低速ストリーク構造から小さな変曲点型不安定性が発生する人工的なカスケード過程であり,実験的にカスケード過程を調べることができることを示している.この速度変動の振幅は高周波初期撹乱の強さと比例し,抽出された乱れ構造が線形的な性質を持つことが確認できた.一方,低周波初期撹乱の強さを弱くした時,変曲点は見られなくなるが,二次不安定性と思われる速度変動が壁から少し離れた位置で確認された.この速度反動が変曲点型不安定性だとすると,弱いストリークに対してもカスケード過程が発生していることを示しており,人工撹乱がない乱流中のカスケードを抽出できることを示唆している. このようなカスケード現象の観察するためには,様々な実験パラメーターで探索する必要があり,場合によっては研究期間の大部分を費やすと予想されていた.しかし,条件が見つかったことで,最終年度はカスケード過程の詳細な実験ができることとなった.
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度である2019年度は,乱流せん断流として低レイノルズ数チャンネルに加え高レイノルズ数チャンネル流と巨大円管装置に広げ,高いレイノルズ数でのカスケード過程の実験をする.また,より様々な実験条件での測定を可能にするため,多数のセンサーによる測定を試み,実験の効率化を図る. カスケードの抽出には励起した撹乱の位相の保存性が重要になるが,位相保存が悪い場合でもアンサンブル平均数を増やすことにより抽出が可能となる.位相保存が悪く抽出した構造が不鮮明な場合,アンサンブル平均数を指数関数的に増す必要があり,実験時間のかかる三次元測定は非現実的になる.この問題を解決するため,熱線センサーを3mm間隔でスパン方向に16本並べた熱線レークプローブと,研究代表者が開発した圧力センサーアレイを使用する.これらのマルチセンサーを用いて高レイノルズ数チャンネルにて実験を行う.アンサンブル平均は20倍多くし撹乱の抽出を試みる. 低レイノルズ数チャンネル流で測定されたスペクトル分布を見ると,大きいスケールとコロモゴロフスケールは一桁程度の違いしかない.これは大きい乱れからカスケードで作られた次の小さい乱れが,粘性の影響を強く受けて弱められることを示唆している.よって,より普遍性がある粘性の影響を受けないカスケードを観察するには,高いレイノルズ数の壁せん断乱流が必要であるため,高レイノルズ数チャンネル流と巨大円管装置による実験を行う.高レイノルズ数チャンネル流装置では,現状より5倍ほど高いレイノルズ数が達成できる.巨大円管装置は直径900mm長さ115mで,壁面摩擦速度に基づく最大レイノルズ数はReτ=13,300である.測定には,I型プローブで熱線流速計を用い,高レイノルズ数でのカスケード過程を定量化する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初2018年度に予定していた海外での実験が,先方の都合により2019年度になったため,一部費用を持ち越した.持ち越した分は,海外旅費の一部として使用する予定である.
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