固体表面と気液界面の交線である接触線の挙動は固体上での液体の濡れ過程を表すものであり,さまざまな工学的分野で重要となる.また,接触線上での固体面と気液界面のなす角度は接触角と呼ばれるが,一般に接触線の運動速度と接触角は互いに関連するため,接触角の特性を明らかにすることは,接触線挙動を理解する上で重要となる.接触角は固体面が平たんな場合と凹凸が存在する場合とでは大きく異なり,前年度までに表面に微小な凹凸を付けた固体面上では接触線がStick-Slip(固着ー滑り)を繰り返すことを明らかにしてきた.2020年度はこれらを踏まえ,開口部が鋸刃状の溝を持った表面を用いた実験を行い,接触線形状の変化と接触線の運動を詳細に調べた.その結果,接触線は鋸刃の先端部(接触線が液体側に凸となる部分)においてはわずかな固着しか見られず,結果的に長方形形状の溝を持った固体面に比べ,固着ー滑りによる接触角の変動が極めて小さくなることが分かった.このような鋸刃部での固着の減弱の原因を明らかにするため,2019年度までに開発した数値計算モデルを3次元に発展させ,鋸刃部での界面形状を詳細に調べた.その結果,鋸刃部では接触線の変形にともなって界面が固体面に平行な面内で流体側に凸形状に湾曲する.これにより液体内の圧力が低下し,周辺部から液体が流入することで,固着からの解放と滑りの発生が起こることがわかった.また,物性の異なるいくつかの試液で同様の実験を行ったところ,いずれの場合とも長方形溝の場合よりも固着の減弱が確認されたが,減弱の度合いやその後の滑り速度は物性に依存した変化が見られた.
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