研究課題/領域番号 |
17K06154
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
前田 太佳夫 三重大学, 工学研究科, 教授 (80238865)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 風力タービン / 後流 |
研究実績の概要 |
地球環境を取り巻く様々な問題への対策として化石燃料から再生可能エネルギーへのエネルギー源の転換が進められており,世界中で風力発電施設の建設が行われている.風力発電施設は,設置面積の効率化やインフラ費用の低減などのメリットからウィンドファームという形態で導入が進められている. 風車を通過した風(後流)は風車のエネルギー抽出によって減速されるとともに乱される.ウィンドファームでは可能な限り密に風車を建てるため,下流側にある風車は上流にある風車の後流の影響を受ける.現在推奨されている風車間距離は,風洞実験や欧米の平坦地形での後流観測によって得られた結果に基づいたものであり,わが国のように乱流強度の大きい複雑地形に対しては事情が異なる.経験的には複雑地形では風車の後流が影響を及ぼす距離は短くなるという報告があり,国内では乱れを考慮した風洞実験などにより風車間干渉について研究されている.しかし,風洞実験では自然風の持つ特性を十分に再現することは困難であるため,フィールドでの後流計測が必要となる. 本研究では様々な地理的条件に適用できる風車後流モデルを構築し,ウィンドファームの最適配置や最適運転制御に資することを目的とする. 本年度は,前年度に構築した風計測システムにより,風車の上流風速および後流風速を計測し,次年度に構築する後流モデル実験式の基礎データを取得した.得られたデータとしては,風車の上流風速,後流風速および推力を同時サンプリングによって取得した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,定格出力30kWの水平軸風車の上流風および後流風速の測定を行った.これらの測定には,前年度に構築した,応答性の高い超音波流速計を設置したマストにより行った.後流風速は主流・水平・鉛直の3成分を取得した.後流測定マストは移動式であり,鉛直分布測定用と水平分布測定用の2種類を使用した.本年度は,後流測定マストを複数の位置に移動して後流の空間分布を時系列で測定した.測定した後流風速は風車上流に設置した基準風速計でとらえた上流風速により無次元化を行い整理した.さらに後流の欠損を相関があると考えられるロータ推力を,ナセル下部に設置したロードセルにより測定した.上流風速,後流風速,推力は同期してサンプリングを行った. なお,上流で観測された風が,風車ロータに達するには時間を要する.つまり,上流風計測と推力計測の相関を考えるときには時間的な差が発生する.これを過去に実施した上流風とロータ面風速との相関解析により時間遅れを補正した. 本年度得られた結果から,風車の後流内の主流方向速度は風車のエネルギー抽出によって流入風と比べて減速し,後流内の乱流強度は大きくなることが明らかになった.また,風車の後流内の主流方向速度は推力係数の増加にしたがいロータ面近傍で減速し,下流に行くにしたがい推力係数が速度に及ぼす影響は小さくなることがわかった.さらに,風車の後流と自由流れの境界では大きなせん断流れを持つため乱れが大きくなることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,後流の能動制御に必要な後流の偏向角と局所的な後流拡大率について,主流平均風速,主流乱流強度,斜め流入角,主流方向距離,ロータ推力を用いて実験式を構築する.次年度に構築する風車後流モデルは,ガウス関数によって後流風速分布を再現する計画である.ただし,一般のガウス関数は対称であるため,非対称性を考慮したものを検討する. なお,本年度に得られた測定データを整理した結果,ロータ推力を変数に含めなくても後流速度分布の推定が可能であることが明らかになった.引き続き検討を重ねるが,少ないパラメータにより実験式を構築するほうが実用的には価値があるため,ロータ推力を変数に含めることの意義については次年度に判断する. また,後流は空間的に揺らぎながら流れていくため,後流と主流の境界を,非定常な変動速度場から判断することは難しく,ブレード先端から煙(エアロゾル)を吹き出させ後流と主流の境界を可視化することを計画しているが,フィールド風車による可視化結果から明確な境界が判断できない場合には,既存の風洞実験による可視化結果を考察に使用する予定である.
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