研究課題/領域番号 |
17K06156
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
村田 滋 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (50174298)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 流体工学 / 流体計測 / 波動光学 / ディジタルホログラフィ / 3次元計測 / 粒子計測 |
研究実績の概要 |
超高速燃料噴霧の液滴径・数密度などの空間分布情報計測や,材料変形と周囲流体の連成運動の3次元同時計測は従来の流体計測法では困難であり,簡便で高性能な計測法の開発が望まれている.そのような計測を実現するための一つの有用な技術にディジタルホログラフィが挙げられる.これは撮像カメラとパーソナルコンピュータを組み合わせ,従来のホログラフィをディジタル化したもので,微小粒子など計測対象物の3次元空間分布状態を干渉縞パターンとしてディジタル画像に記録し,その画像を波動光学に基づき解析すると,粒径・数密度・移動速度など様々な計測対象物の量が同時計測できるという特長を持つ. 本研究課題では,これまで単波長光を用いて開発してきたディジタルホログラフィ粒子計測法を多波長法へと拡張し,単眼で3次元空間に高密度分布する数マイクロ~数十マイクロメートルの微小粒子・液滴群に関する様々な量を時系列同時計測できる高性能ディジタルホログラフィ粒子計測システムの開発を目的としている.特に本研究では,カラー情報を用いた「再生像の画質改善」によって粒子計測の高精度化を図り,実用レベルの単眼3次元空間粒子計測システムを実現するとともに,この粒子計測システムの計測性能を実証実験により検証した.再生像とは,カメラにより一旦記録された観測ホログラム(干渉縞パターン)から元の微小粒子群の空間分布を計算で再現した立体像で,如何に元の分布状態に近い空間分布を再現できるかがそこに記録された粒子群の計測精度に影響する. 平成29年度は,まず,3次元流れ場の計測をするために多波長ディジタルホログラフィ法に基づいた粒子検出法を開発し,数値実験によりその性能を評価した.次に,3板式カラーカメラを組み込んだ多波長ホログラム観測装置を構築して,粒径が明らかな標準粒子を用いた基本性能試験を実施し,開発手法による粒子測定性能を定量評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カラー情報を用いた多波長ディジタルホログラフィ粒子検出法の開発と実際のカラーの多波長ホログラム画像を取得するための観測装置の構築は概ね順調に達成された.そして,開発手法の検出性能を示し,その有用性を数値実験による模擬流動試験及び実験による観測実験の両面から評価することができた. まず,多波長ディジタルホログラフィ粒子検出法については,奥行き位置と波長の関係を利用した新たな再生像処理を開発し,再生像上のノイズの抑制を図った.この方法では,同一奥行き距離において記録した多波長ホログラム画像を,異なる奥行き距離の複数枚の単波長ホログラム画像として扱うことにより,多波長ホログラム画像の再生時に計測対象となる物体光は共通部として強調され,ノイズとなる共役光,非回折光は異なるため非共通部として抑制できる.さらに,多波長ディジタルホログラフィ法を用いて検出した粒子情報の修正を行うIPR処理を導入し,測定精度の改善を行った. 数値シミュレーションによる性能評価では,3次元再生像から粒子像を抽出するための2値化閾値が,設定した粒子の未検出数や誤検出数,検出粒子位置のRMS誤差に及ぼす影響を調査するとともに,粒子数に対する検出精度の確認を行った.その結果,検出粒子位置のRMS誤差は8.7マイクロメートルと評価された.また,流速計測における有用性を示すために,水槽内を沈降する粒子及び矩形流路内を流れる粒子を記録対象として流れの計測を行い,従来手法に比べ,RMS誤差が1/5に低減できることを示した.一方,観測実験では水槽内を沈降する粒子及び矩形流路内を流れる粒子を記録対象として流れの計測を行い,従来手法との比較を行った. なお,当初計画では,再生像からスペックルを除去するディジタル手法を開発する予定であったが,上記多波長ディジタルホログラフィ法がスペックル抑制効果をもつため,その開発は見送りとした.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に開発した多波長ホログラム粒子計測法は,再生像上のノイズ原因となる共役光,非回折光を効果的に抑制できる位相回復法と相性がよく,さらなる粒子計測性能の改善が期待できるため,まず,平成30年度は多波長位相回復ホログラフィ法の開発を中心に実施する.位相回復法は光強度分布を表すホログラム画像の位相情報を反復計算で推定する手法であり,単波長ホログラムを2台のカメラで観測するケースについて既に手法の開発を行っている.本年度は,この位相回復法を多波長ホログラムに適用するとともに,回折現象を基にした推定法へと位相回復法自体を改良し,反復計算の収束性能と位相推定精度の向上を目指す. 次に,平成29年度の研究実績に基づき,多波長ホログラム粒子計測法における最大の問題点は,R・G・Bの3色のレーザー光をコリメートし,同じ光軸に沿って対象物に照明する観測光学系を精度よく調整することにあると認識している.平成30年度は,簡便で精度のよい光学系調整が可能となるよう,既に構築された多波長ホログラム観測装置を改善することを目標の一つに掲げて研究を推進する. 研究成果は,日本機械学会,可視化情報学会,日本実験力学会の国内講演会や国際シンポジウムを中心に報告するとともに,関連学会論文誌などに印刷物で公表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 大学院生の修士論文研究との兼ね合いで数値シミュレーションに関するデータ整理・補助の使用額が必要なかったことが主な理由として,次年度使用額52,905円が生じた. (使用計画) 平成30年度は前年度の研究成果を公表する機会が増えるため,次年度使用額52,905円は日本機械学会または可視化情報学会の学術論文投稿料として追加的に利用する予定である.
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