研究課題/領域番号 |
17K06156
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
村田 滋 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (50174298)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 流体工学 / 流体計測 / 波動光学 / ディジタルホログラフィ / 3次元計測 / 粒子計測 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,これまで単波長光を用いて開発してきたディジタルホログラフィ粒子計測法を多波長法へと拡張し,単眼で3次元空間に高密度分布する数マイクロ~数十マイクロメートルの微小粒子・液滴群に関する様々な量を時系列同時計測できる高性能ディジタルホログラフィ粒子計測システムの開発を目的としている. 平成30年度は1台のカメラで3次元空間を記録できるディジタルホログラフィ粒子計測法の性能を改善するため,多波長照明及びカラーカメラを用いた多波長位相回復ホログラフィを開発し,その性能評価を行った.この手法は位相回復法を多波長ホログラムに適用するもので,実像と虚像が重なって悪影響を及ぼし合う双画像問題を抑制し,粒子検出精度の向上を図った. まず数値実験では,位相回復法の反復回数および粒子群モデルパラメータを変化させて再生像の光強度値と粒子検出数を評価し,再生像の光強度値のRMS誤差を50%~70%低減し,粒子5000個の時,真値に対する粒子検出数比は,従来手法で1.10,提案手法で1.00と改善した. 次に観測実験ではガラスプレートの両面に粒経35ミクロンの石松子を配置して,波長の異なる2つのレーザー光(He-Ne laser; 633nm, 50mW & DPSS laser; 532nm, 30mW)を使用してホログラムを撮影した.数値実験と同様の性能評価を行ったところ,再生像の光強度値のRMS誤差は約15%低減し,粒子約1000個の時,真値に対する粒子検出数比は,従来手法で1.19,提案手法で1.06となり,提案手法の有用性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超高速燃料噴霧の液滴径・数密度などの空間分布情報計測を実現できるディジタルホログラフィを用いて,微小粒子など対象物の3次元空間分布状態を時系列計測する手法を開発してきた.本研究課題では,カラー情報を用いた「再生像の画質改善」によって粒子計測の高精度化を図り,実用レベルの単眼3次元空間粒子計測システムを実現するとともに,この粒子計測システムの計測性能を実証実験により検証することが目標である. 平成29年度からの2年間において,カラー情報を用いた多波長ディジタルホログラフィ粒子検出法の開発と実際のカラーの多波長ホログラム画像を取得するための観測装置の構築は概ね順調に達成された.粒子検出法については,奥行き位置と波長の関係を利用した新たな再生像処理法を2つ開発し,再生像上のノイズの抑制を図った.1つは波長毎の再生像を重畳することで計測対象に関わる物体光を共通部として強調するとともに,粒子情報の修正を行うIPR処理を導入し,測定精度を改善する方法である.もう1つは,位相回復法を多波長ホログラムに適用し,光強度分布を表すホログラム画像の位相情報を反復計算で推定する手法である.どちらの手法も従来法に比べ,多波長ホログラムの特徴を活かした性能改善結果を得ている.一方で,多波長位相回復ホログラフィに大変近い手法が他機関により平成30年度半ばに国際学術誌に掲載されたため,研究報告に遅れが生じている. 一方,3原色のレーザー光源をもつホログラム観測光学系は構築済みであり,応用観測実験を進める段階にある.平成29年度は水槽内を沈降する粒子及び矩形流路内を流れる粒子を記録対象として流れの計測を実施し,開発した粒子計測法の性能評価を行った.また,平成31年度実施を目標に,トルクコンバータ内流動計測への準備を進めた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度となる令和元年度は,前年度までに導入・構築した実験装置および画像解析装置を用いて開発計測法の実証研究を継続し,研究計画全体に関する研究成果の取り纏めを行う. まず,平成30年度に開発した多波長位相回復ホログラフィ粒子計測法は,静止粒子に対する性能評価しか行っていないため,平成29年度の性能評価で対象とした矩形流路内の3次元流速分布計測を行い,その測定性能を評価する. 次に,3次元流動解析への応用実験として,より実用的側面の高い流れ場の解析に適用するため,当初計画の噴霧計測からトルクコンバータ内部流動計測に変更している.トルクコンバータモデルは屈折率マッチングさせたPIV観測実験において既に使用されており,その特徴的な局所域における3次元非定常流れを,平成30年度までに開発した多波長ディジタルホログラフィ粒子検出法を用いて計測する. また,多波長ディジタルホログラフィ粒子計測法の不確かさ解析を実施し,本手法の測定精度に及ぼす様々な誤差要因の関連について考察する.この不確かさ解析により,測定精度に最も大きな影響を与える要因を特定し,本手法を利用する上での留意事項とその影響低減化対策を整理する. 研究成果は,日本機械学会,可視化情報学会,日本光学会の国内講演会およびOSAやSPIE主催の光学関係の国際シンポジウム等で発表するとともに,関連学会論文誌などに印刷物で公表する.また,平成29-31年度の研究全体の成果を取り纏め,最終報告書を作成する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成30年度に開発を行った多波長位相回復ホログラフィに大変近い手法が年度半ばに国際学術誌に掲載されたため,研究報告に遅れが生じており,研究報告に要する費用が必要なかったことが主な理由として,次年度使用額169,624円が生じた. (使用計画)令和元年度は研究最終年度であるため,平成30年度で報告の遅れた研究成果を積極的に公表する予定であり,次年度使用額169,624円は日本機械学会または可視化情報学会の学術論文投稿料として追加的に利用する.
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